「住まいの終活/家じまい」から考える相続と空き家問題

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大家さんの相続対策については、どうしても納税や分割対策など、
いきなりハードなテーマに入りがちなため、「まだ先の話」と腰が引ける人も多いようです。
今回は、もう少しソフトなとらえ方で、「住まいの終活/家じまい」から考えるというスタンスから、
トピックを紹介しましょう。




本当に「終活ブーム」? 意外に低い実施率



「終活」と言えば、今や市場規模が5兆円とも言われる「ライフエンディング産業」として、
介護や終末期医療から始まり、財産整理・遺言・相続、葬儀・お墓まで、
様々な業界から熱い視線が注がれています。
「終活」という言葉が使われ始めたのは2010年前後。
わずか10数年での急成長です。

一方で、人生の終焉を迎えるにあたっての様々な準備という、
厳かな瞬間にビジネスを持ち込むことへの批判の声もあるかもしれません。
しかし、人の死にかかわる部分に触れることを避け、遠巻きにして向き合わなかった結果、
不動産関連でいえば、「放置空き家」や「所有者不明土地」の急増といった社会問題を
招いた面もあるでしょう。
もはや官民あげて正面から取り組まなければ、どうにもならないようになっているのです。

このような問題が深刻化した背景を考えるヒントになる調査があります。
相続・終活に関するプラットフォーム事業を展開する株式会社ルリアンが発表した
「相続・終活に関する全国調査2025」*です。
興味深い項目について、いくつか紹介しましょう。

*対象は、全国の40歳から69歳までの男女、約1万6000人。調査期間は2025年2月下旬。

まず「終活をしている人の割合」を見ると、わずか21.2%でした。
5人に1人にすぎません。
ちなみに都道府県別では、最低が島根県の12.5%、最高が宮城県の29.3%でした。
終活を行っていない人に対する「終活の必要性を感じているか」という質問をすると、
トップは「わからない(49.8%)」で半数近くに達します。
「終活ブーム」と言われる割には、まだまだ行動に移す人は少数派のようです。



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相続にかかわる情報への親子間の意識ギャップ



同調査からは、相続をめぐって親子間で意識にギャップがあることも読み取れます。
図2は「回答者自身が亡くなるまでに家族に遺したい情報」と
「親が亡くなるまでに遺してほしい情報/遺してほしかった情報」について、
割合の高い順にトップ5をピックアップした表です。
それぞれ、「親世代の側から見た意見」と、「子ども世代からの意見」と位置付けても良いでしょう。
同じ項目を色分けで示してあります。


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まず共通点として、
「銀行口座情報」(ピンク)と「資産や負債などの財産状況」(紫)は、
どちらも上位に入っています。
「保険情報」(オレンジ)は、年代で多少の違いはありますが、
トップ5の同じような順位にランクインしました。
全般的に金融資産については双方の価値観が似ているようです。

一方、不動産については観方が分かれています。
「所有している家の相続のこと」(青)は子ども世代では4位に入っているのに対して、
親世代はランク外。
親目線では「兄弟仲良くやっているので、自宅を誰に引き継ぐかまで伝えなくても、
話し合いでうまく解決するだろう」と思い込んでいるのかもしれません。

しかし、子どもの側は、分割でもめる可能性があるので、
親の意向をあらかじめ示してほしいと思っているわけです。

また、「所有している土地」(緑)についても、
親世代は4・5位と下位なのに対して、子ども世代は1・2位と上位になっています。

つまり、子ども世代にとっては、どこにどんな土地を親が持っていたのか、
それを兄弟でどう分ければいいのかについての関心が高いのです。
一方、親世代は、資産と債務などの財産状況についての総額や全般的な規模さえ伝えれば、
自宅やその他の不動産など細かいことまでは言及しないで良いと思っているのかもしれません。
ひいては相続争いの種を蒔いてしまっているおそれがあります。

遺産相続では、現金などの金融資産より、
分割しにくい不動産をめぐって争いが起きやすいと言われます。
親が遺言などで、どのように分割するかを明確に示しておかないと、
遺産分割協議が整わずに共有名義になることが少なくありません。
共有は紛争の母と言われ、
兄弟間の意見が合わずに売却も建て替えもできなくなるおそれがあるのです。
その結果、放置空き家につながる可能性があります。

なお、図1・2は4月に公表された同調査第1弾のデータです。



親子の居住パターンで空き家リスクが変わる



次に、5月に公表された同調査第2弾のデータには、
空き家になる可能性との関係を調べた結果も出ています。

まず、「親名義の居宅の今後について、親が亡くなった時点でどうなるか」を尋ねた設問に対しては、
半数以上の54.4%が「現時点では売却や活用方法について検討していない」との回答でした。
2位の「いずれ家族が住む予定である」(26.1%)の2倍以上です。
そもそも検討していないのか、迷っているのかはわかりませんが、
そのままズルズルと空き家になるおそれがあるでしょう。
いわば空き家予備軍です。

また「空き家になる可能性」を住宅種別で分けると、
戸建てが10.0%、マンションが6.4%と、戸建ての方が1.5倍も高くなっています。
さらに、親名義の戸建てが空き家になるリスクは、
親と子の居住パターンによって変わることも判明しました。
親と子の居住地をクロス集計して空き家リスクを分析すると、
トップ5は、子どもの居住地がすべて首都圏で、親の居住地が首都圏以外だったのです。



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図3は、子どもが首都圏に住んでいる場合に、
親の居住地ごとに空き家リスクがどうなっているかを示したグラフです。
親と子が同じ首都圏にいる場合は最もリスクが低くなっています。
近くにいれば空き家になりにくいのは当然だと思うでしょう。

ただ、興味深いのは、九州や東北より首都圏に近い北関東のリスクが最も高くなっていること。
もし、空き家リスクが親子の居住地の遠近と相関があるなら、
親の居住地が遠いほど空き家リスクは高くなるはずですが、そうはなっていません。

同社の別のデータと併せて分析すると、子どもが複数人いる場合に、北関東では子が全員県外に移り、
その他のエリアでは、少なくとも子のうち1人は親と同じエリアに残っている傾向があったとのこと。
こうした地域特性が空き家リスクに影響しているようです。
地域の特徴に合わせた空き家対策が必要になってくると言えるでしょう。

ちなみに、相続に備えてどんな情報を残せばいいかがわからない場合は、
「住まいのエンディングノート」(国土交通省)や
「東京住まいの終活ガイドブック」(東京都)などがネットで公開されています。
こうしたツールを参考に早めに対策を始めましょう。


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