「建築費の高騰」の中身を深堀り~木造の実態は?

pixta_46757575_M.jpg

土地活用を検討しているオーナーなら、昨今の建築費の動向は気になるところでしょう。
高騰が激しいといわれていますが、実態はどうなのでしょうか。
今回は構造別の動向を取り上げ、特に木造にスポットをあてて解説します。




過去10年で木造の建築費は最大の伸び率。"ウッドショック"の影響残る?



「建築費の高騰でゼネコンが撤退。ビルの建て替え工事がストップ」といったニュースが、
あちこちで聞かれるようになっています。
着工床面積も減少しているようです。
建築コストの上昇は一時的な建築ブームによるものではなく、
人手不足などの構造的な要因からきているだけに、なかなか収まりそうにありません。

「賃貸住宅の新築や建て替えをして採算が合うの?」と心配する声も聞かれるようになりました。
数年前までは家賃水準が横ばいで、建築コストの上昇が収支を圧迫していたからです。

ただ、2023年頃から家賃相場が上昇に転じ、やや収益性は改善しつつあります。
そこで現状について検証してみましょう。

まず、建築費を見る場合に、重要なポイントが建物の構造です。
ひと口に建築費の高騰といっても、どの構造も同じ動きをしているわけではありません。
まず図1-1をご覧ください。


図1-1.jpg



代表的な建物の構造である木造、鉄骨造(以下「S造」)、
鉄筋コンクリート造(以下「RC造」)の建築費の推移を示しています。
数値は、相場が落ち着いていた2015年時点を100とした指数です。

一見すると、木造の上昇率が142.7と一番高いことが目に付くでしょう。
10年で約43%上昇したことがわかります。
一番低いのはRC造の約39%アップ。
S造が約40%アップで真ん中です。
そのため「木造より、RC造やS造のほうが建てやすいのでは?」と思うかもしれません。
しかし、木造に関しては、この10年の間に異常事態が起きた点を考慮する必要があります。
2021年春に起きたアメリカ発の"ウッドショック"です。



木造の資材物価は3年間横ばい。右肩上がりのRC造と対照的



アメリカでは、コロナ禍の初期に落ち込んでいた住宅需要が、
リモートワークの普及などにより2021年から急回復。
そこに米国西海岸での大規模な山火事なども重なり、材木価格が最大で4倍も急騰しました。
この動きが、輸入木材の多くを北米に依存する日本を直撃したわけです。
ただし、ウッドショックは2022年にはほぼ終息に至ります。

そこで、この異常値の影響を除くため、
木造の上昇率がピークになった20227月を100として指数を引き直してみました。
それが図1-2です。


図1-2.jpg


これを見ると、木造とRC造の位置が逆転します。
ウッドショックが落ち着いてからの3年間は、RC造の上昇率が約20%なのに対して、
木造が約12%にとどまり、ゆるやかな動きになっているわけです。

さらに、図2に示した建設資材の価格動向を見てみましょう。
木造の建築費が緩やかな動きを示す理由がわかります
(資材物価の元データは、住宅のS造の分類がなく、
鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)造とRC造が同じカテゴリーに含まれています)。


図2.jpg


木造の資材物価は2021年春から2022年半ばにかけて急上昇し、1年で25%もアップしました。
短期間に急変したのは、言うまでもなくウッドショックの影響です。
その後は、ピーク時の水準を下回るレベルで横ばいが3年間も続いていることが明確にわかるでしょう。
資材物価が横ばいでも建築費(工事原価)が上昇しているのは、
人手不足による人件費高騰の影響が大きいといえます。

一方、RC造(SRC造を含む)の資材価格はコンスタントに上昇しています。
この3年間は上昇率がやや緩やかになっていますが右肩上がりの状態に間違いありません。
木造とRC造の違いは明らかです。

賃貸経営の事業計画を立てる上で、建築費の動きが緩やかで安定していることは重要です。
建築費が右肩上がりで終息が見えない状態では、収支の見通しがたたず、
場合によっては冒頭で触れたような工事ストップや計画の見直しを迫られかねません。
そういう意味で、木造は事業計画を立てやすい構造と言えます。



木造は坪単価が最安。利回りも高め



賃貸住宅の新築を検討している場合、建築コスト自体の水準も重要です。
建築着工統計の工事費予定額の坪単価を、地域別・構造別に示した図3をご覧ください。
地域や構造によって工事費は大きく違うことがわかるでしょう。



図3.jpg


全国平均では、RC造が110万円、S造が103万円、木造が71万円で、
木造はRC造の65%の水準です。
東京都は木造が全国平均並みの75万円なのに対して、RC造は141万円と大幅に高くなっています。
そのため構造による格差が大きく、木造はRC造の53%に過ぎません。ほぼ半額です。

工事費の水準は「RC造>S造>木造」の順に高いのが一般的ですが、
地域によって異なることもわかります。
例えば、愛知県や福岡県はS造の方がRC造より高い水準です。
北海道のように木造のほうがRC造よりも高くなっているケースもあります。

総じて言えることは、木造は地域差が小さいのに対して、
RC造は地域による振幅の差が激しいことです。
RC造の場合、どこで建てるかによって、事業計画がかなり左右されてしまうことがわかるでしょう。

このように工事費が構造によって大きな差が出ることは、
賃貸経営の事業収支にどのような影響を与えるのでしょうか。
家賃収入との関係で検証してみましょう。

家賃相場は、マンション(RC造)のほうがアパート(木造)より高めになることが一般的です。
その格差は通常1~2割程度に収まり、工事費の差ほど大きくありません。
例えば、東日本レインズの家賃データを見ると、
東京23区の坪単価(2025年1~3月)は、マンションが約12000円、アパートが約9900円で、
格差は2割弱です。

この家賃と前記の工事費を基に東京の表面利回りを計算してみました。
マンション(RC造)は10%、アパート(木造)は16%です。木造の方がかなり収益性は高く、
事業収支計画を立てる上で有利になると言えます。
ただし、これは平均値を基に単純化して試算した結果のため、
常にこのような違いが出るとは限りません。
実際に事業計画を立てる際には、地域の実情に合わせて個別に検討する必要があるでしょう。

なお、2010年に制定された「公共建築物等における木材利用促進法」
(通称「都市(まち)の木造化推進法」)が2021年に改正されました。
名称が「脱炭素社会の実現に資する建築物等の木材利用促進法」に変わり、
適用対象が公共建築物から建築物一般に拡大したのです。
中心は店舗や事務所などの非居住用の建物についての規定ですが、
共同住宅や高齢者住宅にも関係してくる法律で、補助金などもかかわってきます。

このように木造に対しては政策的な追い風もあることも、今後有利に働くのではないでしょうか。
新築・建て替えを検討されている方はぜひ判断材料にしてみてください。