少子化が進んでいるとはいえ、
賃貸住宅の主要なターゲットとしては若者シングル層が主流であることは変わりません。
賃貸住宅の建築プランを設計するにあたってニーズを探るときには、人気の設備仕様だけでなく、
間取りや広さに目を向けることも大切です。
今回は、間取りタイプを中心にした若者シングル層のニーズについて、最近のトレンドを紹介します。
「広さが好まれる」「LDK志向が高まる」は本当か?
少し前から在宅ワークの普及や"巣ごもり需要"の増加で、若いシングル層の間でも
「部屋の広さや部屋数を重視する傾向が高まっている」と言われてきました。
リビングルームにゆとりがある「LDKタイプが好まれる」という声も少なくありません。
実際はどうなのでしょうか。
LIFULL HOME'Sが調査した「2025年の住まい探しの繁忙期市況」をもとに考えてみました。
引用元の調査データ:2025年の住まい探しの繁忙期市況|
LIFULL HOME'S https://lifull.com/news/42735/
図1は、東京23区の繁忙期(1~3月)における問い合わせ件数(反響物件)の割合を
間取り別に示したグラフです。
サイトに掲載された賃貸ストックのデータではなく、
実際に部屋探しのアクションを起こした人々のニーズがわかります。
過去5年間の推移も示しました。
ひと目見てわかるのは、1Kの割合が圧倒的に多いことです。
3年連続で割合が増え、直近の2025年では約4割に達しました。
次に多いのがワンルームで、おおむね2割前後です。
この2つの間取りで6割近くを占めています。
しかも、どちらのタイプも4年前に比べて割合が増加しました。
一方、「LDK」タイプはあまり多くありません。
1LDKは14%台、2LDKは10%未満です。
どちらも4年前より割合が減少しています。
つまり、このグラフを見る限り、広めのタイプ、
部屋数が多い物件のニーズが高まっているとは必ずしも言えないでしょう。
この点は、賃貸ストックと問い合わせ(反響物件)とのギャップからも類推できます。
図2は、LIFULL HOME'Sの掲載物件、つまり賃貸ストックの割合に近いと思われるデータです※。
これを図1と比べてみると、そのギャップが浮かび上がります。
1Kの割合が最大であることは変わりません。
※賃貸物件の全ストックではないこと、集計時期が異なることに留意。地域によってもシェアは異なる
図1の反響物件の割合では、2位がワンルーム、3位が1LDKでした。
しかし、ストック(掲載物件)の割合では、その順位が逆転しています。
もしLDK志向が強まっているなら、
ストックの割合に比例して問い合わせが増えてもおかしくないでしょう。
しかし、データ上はそうなっていません。
また、2LDK(12%)も、ストックではワンルームに近い割合で豊富ですが、
反響物件の割合ではワンルームの半分以下にとどまっています。
賃上げが広がってきたと言われる一方で、諸物価のインフレと家賃上昇が家計を圧迫し、
実質賃金は伸びていません。
気持ちの上では「広め・部屋数」を望んでいても、実際に選択するときには、
生活防衛のために相対的に家賃の低いワンルームや1Kへのニーズが
集まっているのではないでしょうか。
直近のデータでいえば、ワンルームの平均賃料は約8万円(図1の元データ。東京23区)、
1LDKは15万円を超えます。
さすがに2倍近い家賃を払える人は少ないでしょう。
ワンルームより1Kが好まれる理由は?
次に、ワンルームと1Kをシングル向けの主要タイプとみなし、
それぞれの違いについて深堀りしていきましょう。
部屋探しの基本条件とも言える賃料、築年数、面積の変化について間取り別に下図に示しました。
元データは図1と同様です。
まずワンルーム(図3)について見ると、賃料は2021年から2023年まで値下がりし、
その後、上昇に転じていることがわかります。
図1と合せて見ると、値下がりした時期に問い合わせのシェアが高まり、
値上がりすると問い合わせが減少しているという状況です。
価格と問い合わせシェアが反比例の関係にあることがわかるでしょう。
また、築年数は増加しています。
直近では、ボトムの2022年より2年近く古くなり、築20年を超えました。
賃料の増加が目立つため、築年の古さで妥協する傾向が強まっているようです。
しかし、部屋の面積については、多少の波はあっても、
家賃が上がっても19㎡前後で大きく変わっていません。
家賃が上がっても、広さは我慢しないという意向が読み取れます。
次に1K(図4)の方はどうでしょうか。
ワンルームと同様に賃料は上昇傾向ですが、ワンルームよりも1年早く上昇に転じました。
築年はボトムの2021年より2年以上も古くなる一方で、面積は23㎡台前半でほぼ変わりません。
やはり、妥協するのは築年で、広さは確保したいという意向が表れています。
なお、最寄り駅からの徒歩分数については、ワンルームも1Kも、
過去5年間でまったく変化がありません。
どちらの間取りでも、利便性や交通アクセスの面では妥協したくないというニーズが読み取れます。
図1との関係で言うと、1Kはワンルームとは異なる動きが見て取れます。
ワンルームは家賃上場と問い合わせのシェアが反比例していると指摘しました。
ところが、1Kは家賃が上昇しても問い合わせ割合が増え続けているのです。
つまり、1Kに対するニーズはワンルームよりも価格上昇への耐性が強いと言えるかもしれません。
図3と図4から、1Kに対するニーズの平均像をワンルームと対比しながらまとめると、
・家賃:1Kの方がワンルームより1万円くらい高い。
・面積: 〃 4㎡くらい広い。
・築年数: 〃 3年くらい新しい。
・徒歩分数:どちらも平均6.4~6.5分で変わらない。
家賃が1万円高くても広くて新しい部屋に住みたいというニーズが1Kに表れています。
プラス4㎡(=2.4畳)あれば、4.5畳の居室を6畳に広げ、水回り設備にも少し余裕を持たせたり、
収納を増やしたりできます。
築年数も新しい方が、設備の性能は優れているでしょう。
こうした数値には現れませんが、
居室と水まわりや玄関との間を扉で仕切られているかどうかも大きな違いです。
狭くて高い東京23区の賃貸。でも、都心回帰は止まらない
最後に、賃料水準、平均面積、収入に対する家賃の負担率について、
東京23区と他のエリアを比較したデータを紹介しましょう。
ワンルームと1Kそれぞれについて、平均面積の狭いエリアのトップ10をピックアップし、
狭い順に左から並べたグラフが図5.6です。
賃料は1㎡当たりの単価で示しています。
まずワンルームは、予想通り東京23区の賃料単価がトップで、唯一4000円を超えています。
最も低い札幌市の2.4倍です。
次いで横浜市が3000円超えで2番目。
面積が19㎡台なのは、東京23区と横浜市の2都市だけで、他はすべて20㎡以上です。
同じ首都圏のワンルームでも、東京23区と千葉市では4㎡もの差があります。
収入に対する賃料負担率は、家賃を月収(額面)で割った比率です。
やはり東京23区がトップで、ほぼ30%に及びます。
無理のない家賃負担の割合は月収の30%以内といわれるため、ギリギリの水準です。
所得税・住民税・社会保険料を差し引いた手取りベースでみれば、もっと負担感は重くなるでしょう。
賃料負担率の最低は、賃料単価も低かった札幌市で17%を切ります。
これだけ違うと、暮らしぶりもかなり変わるでしょう。
1Kの方は、面積帯のランクがワンルームと異なっています。
東京23区が一番狭いと思うかもしれませんが、横浜市が最少でした。
しかも、2~3位が九州勢で、東京23区は4位です。
東京23区の1Kは意外に狭くないと言えるかもしれません。
とはいえ賃料単価はやはり最高で、最も低い奈良市の1.9倍。
賃料負担率は33%以上です。
手取りベースで計算すると40%を超え、給料の半分近くが家賃でなくなってしまうことになります。
負担感はかなり重いと言わざるを得ません。
しかし、家賃の負担が重いからといって、東京一極集中が緩和されるわけではなさそうです。
コロナ禍では「都心からの人口流出。郊外化が進む」と言われ、2021年には東京23区の人口が、
1996年以来25年ぶりに転出超過になりました。
メディアでは「大きな転換点になる。この流れは簡単には戻らない」
という専門家の声を報道していました。
しかし、翌年には "簡単に" 転入超過に戻ってしまったのです。
15~24歳人口の東京23区への転入超過は、2024年に約7万人を記録しています。
都心回帰の勢いは止まりません。
東京中心部へのシングル層の流入はしばらく続きそうです。
立地とプランがニーズに合っていれば、安定した賃貸経営を目指すことは可能でしょう。