2025年3月下旬、毎年恒例の地価公示が発表されました。
ここ数年、値上がり傾向を示していますが、トレンドは変わりません。
メディアで大々的に取り上げられるニュースと実態とのズレについて考えてみました。
その他の不動産市場もあわせて紹介します。
"バブル期以来最高の上昇率"の意味を読み解く
2025年の地価公示を知らせるニュースが3月下旬に各メディアで一斉に発表されました。
おおむね「4年連続上昇」「上昇率拡大」「伸び率はバブル期以来最高」といった、
いかにもバブル期を彷彿とさせる高騰をしているかのような論調です。
では、具体的な上昇率はどのような数字なのでしょうか。
その答えが「全用途全国平均でプラス2.7%」です。
この数値をどう評価するべきかを考えてみましょう。
バブル期とは、だいたい1990年前後を指します。
「バブル期以来最高」というのは30数年ぶりの"高水準"というニュアンスでしょう。
その基準となっている1991年、全用途全国平均はプラス11.3%です。
ところが1992年以降、2006年まで連続15年間マイナス。
その後も1%台のプラスを何度か挟みますが、
ほぼ0%前後で横ばいと言った方が良いかもしれません。
ようやく2%台になったのが昨年の2.3%。
そして今年は2.7%ですから、確かに"拡大"はしています。
ただし、バブルのピークは1988年の21.7%でした。
現在はその10分の1に近いレベルです。
また、消費者物価指数の対前年変動率――いわゆるインフレ率――は2023年が3.27%、
2024年は2.74%ですから、地価はインフレ率よりも低い動きでしかありません。
そもそも「全用途全国平均」の数値を見ても、地価の実態はほとんどわかりません。
用途は住宅地・商業地・工業地の3種類あり、それぞれ異なる動きをしていて、
地域の差も大きいのが現状です。
東京圏の地価は、バブル期のまだ半分以下
そこで、マイホームや賃貸住宅経営に関わる住宅地の価格に着目しましょう。
過去50年以上の長期推移を示したのが図1です。
現在の地価をけん引しているともいえる東京圏、地方4市、その他の地方の状況に分けています。
地方4市は、3大都市圏以外で活発な動きをしている地方中核都市の代表格で、
札幌・仙台・広島・福岡の4つの市です。
1990年前後、昭和から平成にかけての端境期に起きたバブル経済のとき、
東京圏の住宅地は1988年に70%近く暴騰しました。
この10年間、3大都市圏をしのぐ上昇率を示している地方4市は、
バブル期には東京圏の3分の1のレベルにとどまっています。
現在は東京圏が4.2%、地方4市でも4.9%と、5%にも達していません。
とてもバブル期と比較して騒ぐレベルではないでしょう。
さらにさかのぼって列島改造ブームの1974年、地方4市の上昇率が60%を超えてトップでした。
まさに"バブル期並み"です。
当時、その他の地方でも、東京圏と同様に30%を超えています。
この30年、マイナスから0%前後で低迷している地方も含めて、
日本列島全体の地価が沸騰していたと言えるかもしれません。
変動率を見ているだけでは、実際の地価水準がわかりません。
そこで50年前の1975年を100として指数化してみました(図2)。
参考のために、消費者物価指数もプロットしています。
指数のピークは1991年。
1975年から16年で、住宅地は東京圏が4倍以上、地方4市も3倍に高騰しました。
その後、坂道を転げ落ちるような下落が続きます。
2008年に大都市圏で「都心ミニバブル」と呼ばれる地価上昇が起きますが、
グラフ上ではわずかに膨らんでいる程度で、バブルと言えるほどのピークには見えません。
逆に、リーマンショックや東日本大震災でも大きな落ち込みではなかったようです。
2013年頃から再び上昇に転じます。
特に地方4市は急上昇しました。
とはいえ、現在の指数で言えば、地方4市は243でピーク時の8割程度。
東京圏は201とピーク時の半分以下です。
その他の地方は122で、50年前から2割しか上がっていません。
ちなみに東京圏はここ20年、消費者物価指数とほぼ同じラインをたどっています。
経済活動の実態に即した動きと言えるかもしれません。
少なくとも現在はバブルではないでしょう。
むしろ、1年で2倍以上に値上がりしている米価のほうがバブルです。
マンションは右肩上がり、一戸建ては横ばい
地価は不動産市場のベースとなる要素ですが、土地だけでは何も生み出しません。
建物が乗っかって初めて活用できるわけです。
一連の地価の動きを受けて、住宅価格はどうなっているでしょうか。
図3に、一戸建てとマンションの推移を示しました。
東京都のデータですが、全国的に傾向は変わりません。
これを見ると、一戸建てとマンションでは全く異なる動きをしていることがわかります。
マンションが10年間一貫して右肩上がりなのに対して、一戸建てはずっと横ばいに近い状態です。
コロナ禍の最中にやや上昇しますが、この数年は再び横ばいになっています。
単純に地価の動きを反映しているわけではないことがわかるでしょう。
建築費も高騰しています。
多少の違いはありますが、鉄筋コンクリート(RC)造も木造も、この4~5年で3割以上の上昇です。
「地価も建築費も上がっているから、不動産価格が高くなっている」という説明は、
マンション価格に対しては妥当ですが、一戸建て価格には当てはまりません。
一戸建ての方は、原価の動きより、
需要が追い付いていないというマーケットの論理を反映しているわけです。
都区部の新築マンション価格は多摩地区の2戸分
次に高騰しているマンション価格の動きを見てみましょう。
図4は、新築と中古の過去10年間の推移です。
ファミリータイプの平均的な専有面積を66㎡=約20坪として、
単価を基に1戸当たりの価格に換算しています。
10年前、新築マンション価格は、都区部で5000万円台でした。
現在は約2倍に値上がりして、1億円を軽くオーバーしています。
金額にして6000万円近い値上がりです。
多摩地区のマンションを2戸買える金額です。
一方、多摩地区では4000万円台から6000万円台へ、2000万程度の値上がりで、
約1.5倍になりました。
都区部より多摩地区の方が動きはゆるやかと言えるでしょう。
中古マンションでも、都区部は2倍近い値上がりをしています。
多摩地区もゆるやかな上昇傾向は続いていますが、値上がり率は1.5倍にとどまりました。
都区部と多摩地区との格差が拡大しているわけです。
また、2014年から20年まで都区部の中古と多摩地区の新築の価格は、ほぼ同じでした。
その後、多摩地区の新築が横ばい傾向になったのに対して、都区部の中古は右肩上がりが続きました。
現在、多摩地区の新築より都区部の中古の方が高くなっています。
同じ都内でも、都区部と多摩地区ではまるで異なるマーケットになってしまったわけです。
収益物件は価格急騰の反面、利回り低下は緩やか
最後に収益物件の動向についても触れておきましょう。
図5-1・2は、区分マンションと1棟マンションの価格と利回りの推移です。
区分マンションは、ほぼワンルームマンションの動きを反映していると考えて良いでしょう。
おおまかにいえば、価格が上昇するのと反比例して利回りが下がっている状況は変わりません。
ただ、区分と1棟モノでは、細かい動きが異なります。
区分マンションの価格は、2014年から5年程度は緩やかな値上がりで、コロナ禍の間は横ばいでした。
それが、この2年で急上昇している状況です(図5-1)。
一方、区分マンションの利回りは当初、大きく下がって横ばいになり、ここ2年は再び低下しています。
価格の上り方に比べて利回りの下がり方が緩やかなのは、家賃が上昇しているからです。
結果として、かろうじて6%台を維持しています。
1棟マンションの価格は上下の波があります(図5-2)。
大きな山があり、いったん値下がりしたあと、コロナ禍に入ってから上昇に転じました。
2024年には初めて2億円の大台を超えています。
利回りは、価格動向と山谷の形が正反対になっています。
注目したいのは、2023年と24年の利回りがほぼ同じこと。
価格は大幅に上昇していますが、利回りが横ばいということは、
家賃の値上がりがワンルーム以上に大きかったということでしょう。
いずれにしても、地価、マイホーム、収益物件、それぞれ異なる動きをしています。
不動産の分野も多様化が激しいと言えるでしょう。