ペット可賃貸物件をめぐる最新情報から読み解く実態

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「ペット可物件は空室対策に有効」
――入居者確保に悩んでいる賃貸オーナーなら、一度は聞いた言葉ではないでしょうか。
ペットの人気上昇に乗っかって経営を安定化させたいと思うのも人情ですが、
ペットの飼い主の気持ちをつかむのは実はそう簡単ではありません。
ペット可物件をめぐる最新事情を紹介しましょう。



ペット可物件の人気上昇、需要の拡大は本当か?



「集合住宅ではペットは飼えない」という常識は、この20数年で大きく様変わりしました。
20世紀までの分譲マンションでは、
管理組合が定めた使用細則に「小鳥と魚類以外の動物は原則として飼育禁止」
と書かれていることが一般的でした。
もちろん、密かにペットを飼う"隠れ飼い主"がいるマンションも珍しくありませんでしたが、
肩身の狭い思いをしていたことは否めません。

今では、新築分譲時の「ペット可マンション普及率」は9割を超え、堂々と飼えるようになりました。
ちなみに中古マンションを含めたストック全体では、築年の古いマンションが多いため、
ペット禁止が4割を占めています。
逆に言えば、5割を超えるペット可のマンションが主流派になりつつあると言えるでしょう。

賃貸はどうでしょうか。
2002年に公団賃貸が、新規募集物件から試験的にペット解禁に踏み切って以来、
少しずつ賃貸でもペット解禁の気運が盛り上がっています。
それでも、民間の賃貸マンションやアパートの方で見ると、ペット可はまだまだ少数派。
賃貸オーナーが騒音や臭気などのトラブル、原状回復のコスト増を避けたいからです。

こうした中で、最近、意外なデータを見つけました。
株式会社いえらぶGROUPが2025年2月21日に公開した
「住まい探しにおけるペット可物件に関するアンケート調査」では、
「ペット可物件を取り扱う不動産会社が7割を超え、需要が拡大している」というのです。
このデータだけを判断すると、
賃貸物件についてもペット可物件が豊富で盛んに取引されているような印象を受けるかもしれません。

一方、同調査では、エンドユーザーの2割が「希望するエリアでペット可の物件が見つからなかった」
「ペット可物件の情報が少なく、探しにくかった」と回答し、
ペットの飼える部屋を探すのに相変わらず苦労している状況も伝えています。
どうやら不動産会社とユーザー側で受け止め方にギャップがあるようです。



賃貸マーケットの中でペット可の物件は何割ぐらい?



そこで、ペット可の賃貸物件はどのくらい流通しているかを調べてみました。
図1は、代表的な部屋探しポータルサイトに登録された全物件のうち、
ペット相談可の物件の割合がどれくらいかを地域別に示したものです。



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ポータルサイトによって若干の違いはありますが、おおよその傾向は似ています。
13県の全体平均では2025%。
東京23区が一番多く30%以上です。
その他はおおむね10%台後半にとどまり、まだまだ流通量は少ないと言わざるをえません。

前出のいえらぶGROUPが行った調査では、
「ペット可物件を取り扱う不動産会社」のエリア、物件の種別、取り扱う頻度が示されていないため、
賃貸マーケットにおける取引動向を読み取るのは難しいかもしれません。

東京23区内を細分化して見ると、地域による違いがさらに浮き彫りになってきます。
図2は、調査機関である(株)タスが、
23区内の区別の「ペット相談」率(ペット可物件の割合)を調査したデータです。
ランキングの上位と下位をピックアップして示しました。



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トップは港区の約28%。
最下位は江戸川区の7%と、4倍もの格差があります。
また、地域ブロック別で見ると、オフィス街に近い都心3区(ピンク)が20%台後半と高めです。
これに対して、住宅地としての人気が高い城西地区(ブルー)が10%以下で低迷しています。
同じ城東地区でも、5位の江東区と23位の江戸川区は隣り合うエリアですが、
ペット可物件の状況は全く似通っていません。

家賃の高い都心3区なら3~4件に1件がペット可の物件なので、選択肢も豊富です。
しかし、相対的に家賃の低い城西地区や城東地区の外延部では10件に1件もペット可がありません。
希望エリアと予算によって、ペット可物件の探しやすさが全く異なってくることがわかるでしょう。



ペット人気が高まっている?実は犬の飼育率は減少!



「ペットを飼いたい人が増えてペット可物件が人気」
「コロナ禍では巣ごもり需要でペット人気が高まっている」
といったコメントもよく聞かれます。
これが本当ならペットの飼育率は増えているはずです。
実態はどうなのでしょうか。

図3のペット飼育率の推移を見てください。
ペット飼育率とは、日本の総世帯数に占める犬・猫の飼育世帯数の割合です
(ペットフード協会が調査したデータで、持ち家か賃貸かの区別はありません)。

犬の飼育率は、10年に渡って一貫して下がっています。
飼育世帯数も明らかに減っているわけです。
グラフ化していませんが、新たにペットを飼いたい人の割合も増えていません。



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猫の方は、飼育世帯数がやや増加しているにもかかわらず、飼育率は横ばいです。
これは日本の総世帯数の増加と相殺されているからでしょう。
犬に比べると、猫を飼いたいという意向は強まっていると言えるかもしれません。

いずれにしても飼育率が犬・猫ともに10%に満たないというのは、意外に低い印象です。
ここには持ち家の飼育世帯も含まれるため、賃貸でペットを飼いたい世帯はもっと少なくなります。
10人に1人もペット可賃貸を探していないとすれば、
図1と図2で示した「ペット可物件の割合」は、地域差こそあれ、
必ずしも低いとは言えないのではないでしょうか。

そうなると、「ペット可物件の情報が少なくて見つからない」という声は、
物理的にペット可の物件数が少ないのではなく、
「ニーズに合った物件がない」状況を意味していると考えた方が良いかもしれません。
裏を返せば、ニーズに合わない"ペット可物件"が余っている可能性があるのです。




ペット可物件を希望する人の意外な希望条件



ここまで述べてきた点を踏まえると、「賃貸住宅の空室対策にペット解禁が有効」という指摘を、
額面通り受け取るのは危険かもしれません。
ペットの受け入れが空室対策になるというのは、もともとペット可物件は少ないため、
駅から遠いとか築年が古いなどのハンディがあっても、入居してくれるという理屈です。
もちろん、その条件で成功した事例もあります。

ただし、それは単に、
不便な築古ボロ物件をペット可に切替えただけで入居が決まったわけではありません。
たとえ利便性や築年には妥協しても、
ペットの飼い主にとっては外せない条件をクリアしていたからです。
では、どんな条件を希望しているのでしょうか。

最初に紹介した(株)いえらぶGROUPの調査の中から、もう1つのデータを紹介しましょう。
ペット可物件を選ぶ際に重視するポイントです(図4)。



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第1は、意外にも「防音性が高く、周囲に迷惑をかけにくい」
という条件が筆頭に上がっていることです。
過去に、鳴き声による騒音問題でトラブルになった経験があり、
二度と嫌な思いをしたくないという気持ちが表れているのでしょう。
築古の木造アパートでは、とうていマッチしません。
内装の張替えや目先のリノベーションでは対応できないため、
大掛かりな改築か建て替えが必要になるでしょう。

2番目は「家賃や初期費用が適正水準であること」がランクインしています。
以前は「ペット飼育の希望者は、家賃が多少高くても入居してくれる」という声も確かにありました。

しかし、昨今のインフレで、こうした理屈が通用しなくなるかもしれません。
とりわけ犬の飼育にかかる費用は、人の生活費のアップ以上に急増しているからです(図5)。
犬の飼育率が下がっている要因の1つともいわれています。



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この他、周辺環境についても動物病院やペットショップ、
ペットが遊べる広い公園などが近場にあることなど、
ペット飼い主ならではの希望条件が上位に挙がっています。

普通の入居者が確保できないので「ペット可にでもするか」といった安易な発想では、
覚束ないことを改めて意識しておきましょう。