2025年「住みたい街ランキング」から読み解く最新動向~都心回帰は本当か?~

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例年、2月ごろに発表される「住みたい街ランキング」。
アフター・コロナで都心回帰が進んでいるともささやかれていますが、実態はどうなのでしょうか。
不動産価格、家賃ともに上昇傾向にある中、住みたい街を探すユーザーの背景に迫ってみました。



賃貸はトップ8位まで大きな変化なし。購入に異変!?


街の評価にかかわるランキング調査は、複数の各種の不動産ポータルサイトを始め、
複数の会社が公表しています。
ただ、漠然とした「住んでみたい」というイメージや意識についてのアンケートを
ベースにしたものが多いようです。

その中で、LIFULL HOME'Sの「住みたい街ランキング」は、
同サイトの問い合わせ数を駅別に集計して順位を付けています。
実際に部屋探し・物件選びをしているユーザーの意見に近いデータが得られると考えられるでしょう。
賃貸オーナーや不動産投資家が借り手の立地ニーズを知るうえで役に立ちます。

2025年2月10日に公表された最新のデータを見てみましょう。
「借りて住みたい街」と「買って住みたい街」に分けて集計しています。


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まず、「借りて住みたい街」では、
2024年まで4年連続で1位だった小田急小田原線の「本厚木」が2位に後退し、
入れ替わる形で、東京メトロ東西線「葛西」がトップに躍り出ました。

2021~2023年まで3年間、2位だったJR京浜東北線「大宮」は、昨年4位に落ちましたが、
今年3位に返り咲いています。
JR中央線「八王子」も5位以内をキープしました。
その他、8位までは、若干ランクの入れ替えはありますが、昨年と同じ顔触れです。

次に「買って住みたい街」のランキングは、
都営大江戸線「勝どき」が2020年から不動の1位を続けています。
"郊外三羽烏"とも言える大宮・八王子・本厚木は、「借りて住みたい街」と同様に、
こちらのトップ5にも入りました。
実は、それ以外の街が激変しているのです。
これについては後ほど詳しく解説します。

個別の駅の動きについては、リリースを基に多くのサイトで紹介されているため、
この記事は、別の角度から人気の街の動きについて追いかけてみましょう。



借りて住みたい街はシングルとファミリーでくっきり色分け


「住みたい街ランキング」は、コロナ前後でどう変わったかを検証してみましょう。
ビフォー・コロナ=2019年、ウィズ・コロナ=2022年、アフター・コロナ=2025年として、
3年ごと3期に分けて変化を見ました。
コロナ禍でテレワークが普及して郊外化が進み、コロナ後に都心回帰していると言われますが、
実際はどうでしょうか。

まず、借りてみたい街ランクを示したのが図2です。


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赤字は3期ともに登場するエリアです。
「葛西」「大宮」「八王子」「川崎」の4地点が入っています。
2022年と2025年に共通する街も、「本厚木」「柏」「三鷹」の3地点です。
このうち「大宮」「八王子」「本厚木」「柏」が郊外、
「葛西」「川崎」「三鷹」が準郊外と言えるため、都心以外の顔触れが多いことは間違いありません。

2019年にトップだった都心の「池袋」と3位の「中野」が、2022年にランク外になり、
代わって「本厚木」「大宮」「柏」がトップ10上位に入ったことは「郊外化」と言えます。
「蕨」「千葉」も郊外です。

しかし、「アフター・コロナで『都心回帰』」と言えるとすれば、池袋が10位に復帰したことぐらい。
気持ちは「都心回帰したい」と思いながら、家賃の値上がりもあって、
準郊外・郊外にとどまらざるをえない人が多いのではないでしょうか。

ちなみに同調査の2025年版では、
部屋のタイプを40㎡未満のシングルと40㎡以上のファミリーに分けた集計もしています。
面積帯によって街の分布に違いが出ることが、図3の距離圏マップからわかるでしょう。



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シングルは、40km圏の八王子を除いてすべて1020km圏に集まっています。
八王子は、同市内に10校以上の大学がある学生街のため、
例外的にシングル学生の検索率が高いのでしょう。
1020km圏には、シングルとファミリーの両方でトップ10に入っている街が、
葛西と、JR中央線の荻窪・三鷹の3地点あります。

その他のファミリーは、3060km圏の郊外が多くなっています。
しかも、10kmの勝どきは8位、20km圏の武蔵小杉は10位です。
いずれもタワーマンションのメッカとして知られますが、家賃帯が高いせいか、
トップ10の下位にとどまります。

それに対して、1位が50kmの本厚木、3位・4位が30km圏の大宮・柏です。
葛西を除けば、都心よりも家賃の手ごろな郊外の人気が高いと言えるでしょう。



買って住みたい街になんとリゾート地が登場!コロナ前と顔ぶれ激変


次に「買って住みたい街」について考察してみましょう。
まず、コロナ前後の変化です。



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「借りて住みたい街」に比べると、3期ともに登場する街は「八王子」のみと、
共通点が少ない印象です。
そして何よりも、冒頭に触れたようにコロナ前とコロナ後の激変ぶりが大きいと言えます。
距離圏マップをあわせて見るとわかりやすいでしょう。



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緑色が2019年、赤色が2025年です。
一見して明らかなように、2019年は10km圏内の都心に集中しています。
しかも、JR山手線の「目黒」「恵比寿」、山手線内の「広尾」など、
地価の高いエリアがほとんどです。
遠くても30km圏です。
これらの街が2022年、コロナ禍で一掃されます。

2025年には、都心は「勝どき」と「後楽園」のみ。
「大宮」「八王子」以外は、5060kmの遠郊外が多くなっています。
賃貸のファミリータイプ以上に郊外化が顕著です。

中古戸建であれば1000万円以下で買えるJR総武本線の「八街」は、数年前から注目されています。
今年初登場の東武東上線の「東松山」も同様の相場感です。
ちなみに「東松山」は、東洋経済新報社の「住みよさランキング2024」で、
埼玉県内40市中1位を獲得するなど、隠れた人気エリアだとか。

そして、今年のトピックスは6位の「湯河原」と7位の「大網」です。
JR東海道本線の「湯河原」は伊豆半島の根本、熱海の手前にある温泉リゾート。
JR外房線の「大網」も九十九里浜のビーチリゾートです。
つまり、郊外の枠を超えて別荘地に定住しようという動きが活発化しているのかもしれません。

都心回帰どころか、都心は一部の富裕層の限定マーケットになりつつあり、
マイホームの立地は郊外からリゾートへ、外へ外へと膨らみつつあるようです。
1990年前後の平成バブル期に近い現象です。
膨張しすぎた風船は、いつか弾けます。
いつか来た道をたどるのでしょうか。
「住みたい街ランキング」から不動産市況の未来が垣間見えるようです。