全国民にかかわるマイナ保険証をめぐるドタバタ劇は記憶に新しいところですが、
賃貸経営をする個人事業主にとって重要なのは確定申告です。
こちらもデジタル化の波が押し寄せています。
2025年の確定申告にあたってのポイントと注意点を解説しましょう。
所得税の確定申告、7割がe-Tax。マイナポータル連携で利便性向上
国が推進する行政サービスのデジタル化は、分野によってまだら模様です。
2024年12月2日、健康保険証をマイナンバーカードと一体化した「マイナ保険証」の制度が
本格的にスタートしました。
当初から危惧されていたように、認証エラーなどのトラブルが頻発したこともあり、
使い勝手はあまり良くありません。
そのせいか、開始後1週間のマイナ保険証の利用率は28%にとどまっています。
スムーズに普及するまでには、まだまだ紆余曲折がありそうです。
一方、オンラインで確定申告を完結できるe-Taxの利用率は、
2023年度時点で所得税申告が69.3%、法人税申告は86.2%に達しています。
2004年に試験的にスタートして以来20年という長い歴史もさることながら、
徐々に使いやすくなっている点も、着実に利用率が高まっているポイントの1つでしょう。
確定申告の添付書類についても、デジタル化による利便性アップが進んでいます。
例えば、源泉徴収票や各種の控除証明書は、これまで発行主体ごとに収集・管理して、
1件ずつ内容を申告書に転記したうえで提出しなければなりませんでした。
これに対して、2017年にスタートした「マイナポータル連携」を使えば、
証明書の収集・管理は不要ですし、データは申告書の所定の欄に自動入力されるため、
手続きも簡単です。
当初、住民票や課税証明書などの行政機関の書類からスタートしたあと、
対象範囲の拡大や民間企業・機関とのデータ連携が着々と進み、
現在では、税務手続きに関して連携できる対象は図1のような項目まで広がりました。
ただし、今はまだ、すべての税額控除には対応していません。
ふるさと納税以外の国・地方自治体・特定公益増進方針などへ寄付金控除、
特定口座以外の口座で管理している上場株式等の配当控除、
災害や盗難などで資産に損害を受けたときの雑損控除は対象外です。
まだまだ進化の途上と言えるでしょう。
紙ベースの確定申告では2025年1月から「控えの収受日付印」が廃止に
2025年1月からの大きな変化という点で昨今話題になっているのが、
「申告書等の控えへの収受日付印の押なつ廃止」です。
これまでは確定申告を紙ベースで行っている場合、正本(提出用)と複写式の控えがあり、
申告書を提出した税務署から、控え用紙の方に「収受日付印」を押なつしてもらうことができました。
デジタル化推進のための紙削減、ハンコ廃止の動きの一環です。
(キャプション)確定申告書の「収受日付印」の例
収受日付印がある控えは正本と同じ内容であること、
また提出した日付がいつかを証明できるとされています。
経営状態や事業収支を把握する証明書代わりになったわけです。
そのため、個人事業主が金融機関から融資を受けたり、
国や自治体に補助金や助成金を申請したりする際に、手続きに必要な書類の1つとして、
この確定申告書の控えの提出を求められるのが一般的でした。
そのため、今回の廃止を受けて「銀行から融資を受けるときはどうすればいい?」
とザワついたというわけです。
これに対して国税庁では、金融機関などに対して
「2025年1月以降は、各種の事務において収受日付印の押なつされた申告書等の控えを
求めないことを徹底いただくようにお願い」しているとリリースを出しています。
これで一件落着にはなりません。
控えは求められなくても、それに代わる証明書は求められるからです。
国税庁では苦肉の策を打ち出しています。
当分の間の対応として、
「今般の見直しの内容と申告書等の提出事実等の確認方法をご案内するリーフレット」
(下写真参照)に、収受した「日付」や「税務署名」を記載したものを、
税務署の窓口で希望者に渡すことにしたようです。
従来は、申告する人が持参した控えに収受印を押すだけで済みました。
ところが、本来なら、ペーパーレスを進めるためのハンコ廃止が、
新たに紙のリーフレットを作成・配布するという皮肉な結果とも言えます。
実は確定申告の内容を証明する方法は、他にも複数用意されていて、
事後的に証明書を手に入れることは可能です。
e-Taxを使う方法と使わない方法があります。
①e-Taxを活用する方法
a)もともと確定申告書をe-Taxで提出している場合:
メッセージボックスに格納された受信通知から、電子申請等証明書の交付を請求。
b)書面で申告した場合:
e-Taxの「申告書等情報取得サービス」を利用して、
所得税申告書・青色申告決算書・収支内訳書のイメージデータ(PDF)を無料で取得。
ただし、マイナンバーカードが必要で、手続きはオンライン申請のみ。
②e-Taxを使わない方法
c)保有個人情報の開示請求:
所轄の税務署に申請して確定申告書の写しを入手。
オンライン申請も可能。
ただし、写しの交付までに約1カ月程度、手数料として300円
(オンライン申請の場合は200円)がかかる。
d)納税証明書の交付請求:
所轄の税務署で、提出した確定申告書の納税額、所得金額の証明書を取得。
ただし、確定申告書の提出年月日は確認できない。
オンライン申請も可能。
手数料は、税目ごと1年度1枚につき400円(オンライン申請は370円)
今後は、これらの方法で入手した証明書を、
各種の融資や補助金の申請に利用するようになるでしょう。
定額減税の申告も忘れずに。予定納税をしている場合の違いに注意
2024年分の所得に関する確定申告の期間は、2025年2月17日から3月17日までです。
例年「2月16日から3月15日まで」ですが、2025年は、2月16日が日曜日、3月15日が土曜日のため、
上記の日程になっています。
2025年に行う所得税の確定申告については、税制改正などによる変更点は特にありません。
今回だけの注意点を1つ挙げるとすれは、2024年6月から実施された「定額減税」です。
会社員の場合はすでに勤務先で実施済みだと思いますが、
個人事業主の場合は確定申告で控除の手続きを行います。
今回の定額減税は、本人と生計を一にする配偶者を含む扶養家族1人につき、
所得税3万円、住民税1万円、合計4万円を税額から差し引ける措置です。
なお、本人以外は、合計所得金額が48万円以下、本人が営む事業の専従者以外、
などの条件があることにも注意しましょう。
本人の合計所得金額が1,805万円超の場合も、定額減税の対象外です。
例えば、家族が本人と扶養家族2人の場合は、
合計3人なので控除額は所得税と住民税の合計で[4万円×3人=12万円]になります。
所得税の確定申告では、所定の欄に人数と所得税の控除額9万円を書き込むだけです。
ただし、「予定納税」がある個人事業主の場合は、やや手続きが異なります。
予定納税というのは、前年分の所得金額や税額などを基に計算した「予定納税基準額」が
15万円以上ある場合に、その年の所得税と復興特別所得税の一部を、
翌年の確定申告をする前にあらかじめ納付しなければならない制度のこと。
いわば「前払いの所得税」です。
該当する人には、税務署から予定納税の通知書が届きます。
具体的には、予定納税基準額を3等分して、3分の1ずつ2回に分けて支払います。
第1期分が7月31日まで、第2期分が11月30日まで。
翌年の確定申告のときに、実際に計算した年間の所得税額から、
すでに予定納税した2回分の金額を差し引いた残額を納税するわけです。
実際の所得税額より予定納税の方が多い場合は、払い過ぎていた分が還付されます。
さて、この予定納税をしている個人事業主の場合、
すでに2024年の第1期分の予定納税の段階から、今回の定額減税の通知が届いていたはずです。
ただ、この段階では、事業主本人の1人分のみ、
所得税3万円の定額減税が自動適用されているでしょう。
扶養家族の分はカウントされていません。
そのため、確定申告の際に扶養家族分の減税を受ける手続きが必要になります。
ちなみに、消費税や法人税についても、
所得税の予定納税と同じ「中間申告(中間納付)」と呼ばれる制度があります。
税金の種類ごとに、手続きや納税のタイミングが異なるため、資金繰りに苦労しないように、
あらかじめ準備しておきましょう。