いま、「防災配慮型」のコンセプト賃貸がアツい!その理由、具体的なプランとは

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今どきの賃貸住宅で満室経営を目指すには、
競合物件に負けない独自性を出すことが重要だと言われます。
その1つが「コンセプト賃貸」。
入居者がどのように受け止めているのか、どんなコンセプトが人気なのか、
オーナーの経営戦略にも影響する情報をお届けします。


趣味嗜好より、安心・安全への関心が高まる


賃貸住宅のプランニングにあたって、
特徴のあるテーマを打ち出す「コンセプト賃貸」を目指すケースが増えています。
その背景にあるのは、人口が減少傾向にあるにもかかわらず新規供給はとまらず、
空室が増えて厳しさを増す賃貸市況です。
単に人気の設備を採用するだけでは入居者の確保が難しいため、
競合物件と差別化する戦略の1つとして登場しました。

10年前に出始めたころは、「ガレージ付き(車好き向け)」「防音室付き(楽器好き向け)」
「ワインカーブ付き」など、特定の趣味嗜好を持つ仲間を想定したコンセプトが中心でした。
自然志向、スローライフ派向けの「畑付きエコ賃貸」、
子育て世帯から高齢者まで共存する「多世代共生賃貸」など、
価値観やライフスタイルが似ているコミュニティを中心に据えた例もありました。

建築家が設計して外観やインテリアの凝った「デザイナーズ賃貸」、
築古物件で入居者がDIYできる「カスタマイズ賃貸」も一世を風靡しました。
「ペット共生賃貸」は、比較的古くからあるもので、コンセプト賃貸の走りと言えるかもしれません。

こうしたコンセプト賃貸への志向が、ここ数年で変化しているようです。
図1は、SUUMOリサーチセンターが毎年発表している「賃貸契約者動向調査(首都圏)」のうち、
「魅力あるコンセプト賃貸住宅」の10位までを示したグラフです。

図1.png

なんと「防災賃貸住宅」がトップになっています。
しかも、2021年から23年まで、3年連続の1位です。
個人属性の違いで言えば、3040代女性の支持率が特に高くなっています。
女性はセキュリティを重視すると言われますが、
防災面でも"安心・安全"を求める傾向が強まっていると言えるかもしれません。

「デザイナーズ賃貸」は第2位をキープしているものの、徐々に関心度が下がっています。
かつてコンセプト賃貸の代表格だった「音楽好き向け」や「車好き向け」は7~8位に後退しました。

もう1つ注目すべき点は、トップ3に「ZEH賃貸」が入っていること。
ZEHとは、建物の断熱性を高めて節電しながらソーラーパネルで発電して、
住宅内で消費するエネルギー量を正味でゼロにする住宅です。
3年前は5位でしたが、徐々に順位を上げて2023年に3位に躍り出ました。

ZEHに魅力を感じる理由としては、「1位/光熱費を抑えられる」
2位/売電収入が居住者に還元されることがある」など、経済的なメリットが上位です。
ただ、5位に「太陽光発電や蓄電池の活用により、停電など災害時に強い」という項目が入っています。
ZEHは、地球温暖化対策のために国の政策として推し進められていますが、
防災面のメリットも注目を集める理由の1つになっているのでしょう。


多発する自然災害に、若者の防災意識も向上


防災賃貸住宅への関心が高まっている状況は、他の調査でも明らかになっています。
少し前の調査ですが、
図2は、「UNDER3030歳未満)」のユーザーを対象にしたデータ(アットホーム調べ)です。
「部屋探しにあたって防災を意識したか?」という質問に「はい」と答えた割合を示しました。

図2.png

これを見ると、2019年から2021年にかけて、学生・社会人、男女を問わずに
「防災意識」が高まっていることがわかります。
2019年は、学生より社会人の防災意識が低めでした。
それが急激にアップして、2021年にはほぼ横並びになっています。
とりわけ社会人女性の意識向上が顕著です。

前出・SUUMO調査の全国版では、
「ハザードマップを住まい探しの際に自分で見たり調べたりしたか」という質問もありました。
「いいえ」の方が約48%と比率は高いのですが、
「はい」と回答した人が40%を超えている点も注目していいでしょう。

このように防災意識が高まっている最大の理由は、地震、台風、集中豪雨など、
甚大な被害を伴う自然災害の多発です。

2018年6月末から7月にかけて発生した「西日本豪雨」では、
西日本を中心に河川の氾濫や浸水害、土砂災害が発生し、死者数が200人を超えました。

2021年と2022年には、立て続けに震度6強を記録した「福島県沖地震」が発生。
東日本大震災以来10年ぶりの強い揺れで、関東でも多数の停電が起きるなど、
ライフライン被害も甚大でした。
能登半島では、20235月の震度6強に続き、
2024年正月に震度7の地震が起きたことはまだ記憶に新しく、今なお復興の途上です。

これだけ自然災害が重なれば、賃貸住宅といえども、部屋探しの際に、
防災や安全性を気にするようになるのは当然の流れと言えるでしょう。


防災に配慮した賃貸住宅のプランとは?


では、「防災賃貸住宅」とは、具体的にどういう建物、設備仕様なのでしょうか。
ハウスメーカーやアパート・ビルダーが提案している商品を基に、
いくつかの要素をピックアップしてみました。

〇備蓄:飲用水や食料品を保存できる収納庫、パントリー(食品庫)などを各戸に設置して、
ローリングストック※を推奨。共用部分には防災備品倉庫を設置。

*ローリングストック:ふだん食べているレトルト食品や缶詰などを多めに、
3日~1週間分買い置きして、賞味期限の古いものから飲食。
減った分を買い足し、常時一定量を備蓄されている状態を保つ。
「蓄える→食べる→補充する」というサイクルを繰り返す収納方式。

〇ライフラインの確保:太陽光発電・蓄電池を装備し、
停電時に使える非常用コンセントを共用スペースに設置。
長期間の停電にも対応。平常時は、共用部の照明等に利用。

〇感震遮断ユニットの採用:震度5以上で分電盤ブレーカーを自動的に遮断する装置。
停電から復旧した際に起こる通電火災を防止。

〇窓シャッター:台風、竜巻などの際に飛来物の被害を防止。防犯用にも役立つ。

〇家具の転倒防止用器具を設置できる固定用下地を各戸の壁面に設置。

〇その他:災害復旧に役立つ保証、お見舞い、サポート制度などの提供。

以上のようなアイテムの中から、いくつかが組み合わされて提案されるケースが多いようです。


「防災+エコ」のダブルで家賃アップも許容?


前項で紹介した防災関連アイテムのうち、太陽光発電や蓄電池以外は、
それほど導入コストが高いわけではありません。
オプション・プランのバリエーションとして採用するのは難しくないでしょう。

太陽光発電装置や蓄電池は、事業費全体に影響するコストアップになります。
どうしても導入することにはためらいがあるかもしれません。
とはいえ、これらはZEHに必要な設備でもあります。

実は、新築住宅に対する省エネ基準適応が、2025年に努力義務から強制に変わり、
2030年にはZEHが標準化されるとも言われています。
これから新築する場合には、「防災+エコ」という2つのコンセプトを併せ持ったアイテムとして、
前向きに採用するべき要素になってくるのではないでしょうか。

ちなみに、ZEH賃貸住宅に魅力を感じている人は図3の通りです。
ある程度までは家賃アップを許容する意向があります。

図3.png

全体平均では約7割が家賃アップを許容しています。
許容率としては「+5%まで」が多いものの、
「0%(家賃が少しでも高くなるなら選ばない)」は少数派です。
世帯別で見ると、最も許容率が高いのはファミリー世帯。
全体の約8割が家賃アップを受け入れています。
これに対して、ひとり暮らしの女性・社会人は「0%」が半数以上を占めます。
入居者ターゲットに合わせて、取捨選択すると良いかもしれません。

コンセプト賃貸の1つのカテゴリーとして
「防災賃貸住宅」が取り上げられるようになっているわけですが、必ずしも「防災配慮」というのは、
コンセプトというより、本来住宅に備わっていなければならない基本性能でもあります。
これから新築、リノベーションを検討する際には、
有力なプランの1つとして積極的に考えてみましょう。