都市部を中心にした地価高騰の影響で、路線価も上昇中です。
土地オーナーにとっては、資産価値が上がる一方、相続税の増額にもつながるだけに、
大いに気になるところでしょう。
手持ちの財産の評価が今どうなっているのか、不動産を中心に相続税評価額の調べ方を解説します。
"時価"には、いくつもの顔がある
そもそも「評価額とは何か」から入りましょう。
相続税がかかる財産の評価額は、基本的に"時価"だと国税庁は定めています。
この"時価"を一言で説明するのは容易ではありません。
財産の種類によって中身がまるで違うからです。
代表的な財産の"時価"評価の方法を図1に示しました。
わかりやすいのは現預金。
現金は紙幣や貨幣に記載された額面通り。
預貯金は、金融機関の利息込み口座残高です。
その他の財産は、詳細については省きますが、
おおむねマーケットで取り引きされる売買価格が"時価"評価のベースになると言えるでしょう。
不動産も本来なら売買価格が"時価"のはずです。
しかし、不動産は売買に時間がかかるうえに、
売り主や買い主の事情によって価格にバラツキが生じやすいため、
なかなか適切な時価を確定できません。
そこで、スムーズな相続手続きができるように、国が標準的な評価方法を別途定めているのです。
例えば、宅地の路線価方式や倍率方式(後述)になります。
マーケットの時価と、税務上の"時価"は一致しないと考えておいた方が良いでしょう。
図1の通り、不動産の相続税評価額は、土地か建物か、自ら利用するのか他人に貸すのかなど、
種別と用途によっても計算方式が違ってきます。
同じ土地でも、用途によってどのくらい評価額が変わるかを例示したのが図2です。
一番左が、実勢価格――いわゆるマーケット上の時価です。
土地と建物、それぞれ5000万円ずつで合計1億円だったとしましょう。
これが相続税評価になると、①自分で使う土地・建物の場合は70%の7000万円にダウン。
②賃貸住宅の場合は、実勢価格の半分近い5260万円まで下がります。
さらに、小規模宅地の評価減という特例(後述)を使うと3680万円。
最初の3分の1です(あくまで試算例のため、目安の1つと考えてください)。
これだけ大きな違いがあるせいか、
「更地に賃貸住宅を建てると、大幅に相続税評価額が下がるため、節税効果が高い」
といった言い方があります。
しかし、税務当局からすれば、必ずしも節税を推奨する規定を設けているわけではありません。
借地権や借家権のように、他人の権利が付いていると自分の独断では利活用ができず、
様々な制約が生まれる分だけ評価が下がるということです。
制約が強いほど評価は低くなると考えてください。
土地評価額を決める路線価の調べ方
では、土地の評価額の出し方を説明しましょう。
自分で利用する宅地の場合、前述したように路線価または倍率方式で計算されます。
路線価は、道路網が整備された市街地などの土地に適用される評価額です。
道路ごとに指定され、その路線に面する土地の1㎡あたりの単価が路線価図に記載されています。
全国の路線価図を閲覧できるのが、
国税庁が運営している「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」というサイト。
図3に、日本一高級な住宅地として知られている東京都千代田区の番町エリアの例を示しました。
路線価を示す数値の周りに、丸・楕円・台形などのマークがあります。
それぞれ、「普通商業・併用住宅地区」「高度商業地区」「繁華街地区」などの地域の環境を表し、
マークがない数値のみは「普通住宅地区」です。
図3.路線価図の例(千代田区番町エリア)
例えば拡大図の①は、細い路地に面した普通住宅地で「970C」と出ています。
数値の単位は千円なので、1㎡あたり97万円。
1坪(3.3㎡)あたりに換算すると約321万円です。
数値の右側のアルファベットは借地権割合を意味する略号です。
路線価図の右上に、アルファベットに対応する借地権割合が、
Aの90%からGの30%まで7段階で記載されています。Cは70%です。
②は大通り沿いの高度商業地区で「5480B」。
1㎥あたり548万円(坪当たり約1812万円)です。
同じエリアでも、路線と周囲の環境次第で5倍以上も開きがあることがわかるでしょう。
また借地権割合は80%。地価が高いほど、借地権割合も高くなります。
借地権割合は、貸地や貸家建付地の評価額を算出するときに使います。
例えば、賃貸住宅の建つ土地の評価は「貸家建付地」となり、
「自用地の評価額(路線価)×(1―借地権割合×借家権割合)」で計算します(図1参照)。
市街地の借家権割合はおおむね30%のため、路線価が「970C」だとすると、
「97万円×(1―70%×30%)=76.6万円」となります。
そして、1㎡当たり路線価に土地面積を掛け合わせたものが相続税評価額になります。
これはあくまでも概算値です。
厳密には、土地の形状、奥行き、接道状況、がけ地の有無、地積の大きななどによって、
一定の補正をかけなければなりません。
計算方法は複雑になるため割愛します。正確に知りたい場合は専門家に相談しましょう。
倍率方式や農地の宅地比準方式も知っておこう
路線価が指定されていない地域の土地は、倍率方式で評価します。
土地の固定資産税評価額に地域ごとに指定された倍率を掛け合わせる方式です。
この倍率表も前出の国税庁サイトで閲覧できます。
東京都下のある地域の例をピックアップして図4に示しました。
例えば、上記以外の地域の宅地の欄に「1.1」と出ている数字が倍率です。
つまり、「宅地の固定資産税評価額×1.1×地積」で計算します。
田畑の欄に出ている「純 26」や「中 30」は、「純農地」「中間農地」の倍率の略。
それぞれの固定資産税評価額を26倍、30倍にするという意味です。
この他に、宅地に近い市街地農地、
いわゆる市街化区域内農地の場合に適用される「宅地比準方式」という方法もあります。
宅地に転用するために必要な造成費を、宅地であるとした場合の評価額から控除する形です。
地主層の中には、こうした農地を所有しているオーナーも少なくないでしょう。
評価額が大幅に圧縮される小規模宅地等の特例
以上のような形で、土地の相続税の課税の基になる評価額が割り出せます。
ここから、さらに評価額を大幅に減らせるのが「小規模宅地等の特例」です(図5参照)。
一定の規模以内の土地については最大80%もの減額、つまり評価額を5分の1に圧縮できるだけに、
メリットは大きいでしょう。
例えば、80%減額を受けられる特定居住用宅地等の条件は、亡くなった被相続人が住んでいた自宅を、
同居していた配偶者や生計を一にしていた親族が相続した場合。
例外として、被相続人が高齢者施設に入所して亡くなったときに住んでいなかった場合、
親族が同居していなくても賃貸住まいだった場合(自己所有の家に住んでいない場合)
などにも適用されます。
貸付事業用宅地等は、いわゆるアパートや賃貸マンション、駐車場などを経営していた土地です。
こちらは減額幅が50%に抑えられますが、上限面積の範囲内なら複数の土地にも適用できます。
なお、bとcの事業用宅地については、
相続開始前3年以内に新たに事業を始めた場合には適用されません。
相続税節税のために事業用にするといった租税回避行為を防ぐためです。
建物の評価額も上昇傾向
最後に、建物の相続税評価額についても触れておきましょう。
こちらは固定資産税評価額とイコールです。
貸家の場合は、借家兼割合(30%)が減額されます。
固定資産税評価額は3年に一度評価替えされ、路線価と同様に上昇傾向にあります。
図6は、新築した建物のうち、
まだ固定資産課税台帳に記載されていない建物を登記する場合に参照する課税標準価格です。
実際の固定資産税評価額と異なる場合もありますが、1つの目安として参考になるでしょう。
これを見ると、評価替えの度ごとにすべての構造でアップしていることがわかります。
土地の路線価はメディアで大々的に報道されますから値上がり状況を意識しやすいのですが、
建物についてはまったくニュースになりません。
固定資産税評価額の評価替えについても、意識してチェックするようにしましょう。