マンション価格の高騰、地価上昇が先行する中、
やや遅れて賃貸住宅の家賃が上昇していると指摘されています。
人口減少や空室率の増加のため、賃貸市場は長く低迷すると言われていましたが、
実際のマーケットはどうなのでしょうか。
建物の種類や間取りタイプ別の動きを含めて、
最新データを基に首都圏の家賃相場の動きを解説します。
募集家賃と希望家賃にギャップ。エリアによって異なる動き
一口に家賃と言っても、基となるデータによってとらえ方が変わります。
まず、市場に出回っている物件の家賃から見てみましょう。
図1-1は、
不動産ポータルサイトのLIFULL HOME'Sに広告として掲載された物件の家賃(掲載家賃)と、
入居希望者が同サイトで検索して問い合わせなどのアクションを起こした物件の家賃(反響家賃)
に分けて示しています。
前者は賃貸オーナーの募集意向に近いデータ、
後者はユーザーのニーズを反映したデータと考えてよいでしょう。
エリアは、首都圏の中でも特に動きに特徴がある東京23区と、
神奈川県の横浜市・川崎市をピックアップ。
間取りはシングル・タイプです。
このグラフから2つのことがわかります。
1つは、2023年初頭の住み替えシーズンから家賃上昇が始まっていることです。
コロナ禍で緊急事態宣言が出されていた最中は、やや右肩下がりか横ばいで推移していました。
その後、インフレが顕在化するにつれ、家賃が上向きに転じています。
横浜市・川崎市より東京23区の動きが激しく、
2024年に入って、戸当たり家賃がシングルで10万円を超えました。
2つ目は、【掲載家賃】と【反響家賃】の動きの違いです。
東京23区では、【掲載家賃】(青の実線)が大幅な上昇をしているのに対して、
【反響家賃】は横ばいに近い緩やかな動きになっています。
また、2022年までは【掲載家賃】と【反響家賃】に大きな差はありませんでした。
しかし、2024年に【掲載家賃】が急騰するのに対して、【反響家賃】が追い付けず、
ギャップが1万円以上に広がっています。
なるべく高く貸したいオーナーの意向を踏まえた【掲載家賃】と、
安く借りたいユーザーの希望が投影された【反響家賃】の特徴を示していると言えるでしょう。
一方、横浜市・川崎市を見てみると、
【掲載家賃】より【反響家賃】の方が高い水準で推移しています。
東京23区とは逆の状況です。
市場に出回っている物件には、築古や駅から遠くて家賃が低い物件も含まれています。
その中から、家賃は少し高くなっても、
築浅・駅近物件を選びたいというニーズが高いのかもしれません。
埼玉や千葉、東京多摩地区などの郊外方面では、横浜市・川崎市と同じような傾向です。
シングルよりファミリー・タイプが急激な値上がり。上昇から反転へ?!
ファミリー・タイプの家賃推移も見て見ましょう。
まず、シングルよりファミリーの方が、家賃が上がり始める時期が早めです。
東京23区は2022年の後半から、横浜市・川崎市は2022年初頭から上昇に転じています。
次に、シングルよりもファミリーの【掲載家賃】の方が上昇率は高くなっています。
東京23区では、
シングルは、ボトム(図1-1の最低値)からピーク(同・最高値)まで約15%のアップ。
ファミリーの上昇率は30%を超えています。
【反響家賃】はほぼ横ばいなため、
直近では、【掲載家賃】と【反響家賃】のギャップが4万円近くに達しました。
【掲載家賃】が高くなり過ぎて上昇傾向に歯止めがかかり、やや反転しつつあるようです。
また、横浜市・川崎市のファミリーは、
【掲載家賃】と【反響家賃】の関係に途中で変化が起きています。
2023年前半までは、シングルと同様に、【掲載家賃】より【反響家賃】が高い水準でした。
しかし、【掲載家賃】の上昇率が高くなり、2024年には関係が逆転。
東京23区と同じような図式になりつつあります。
ファミリー向けの家賃がシングル向けより激しい動きをしているのは、
売買市場との関係も考えられます。
マンション価格は、2013年頃から右肩上がりで値上がりし始め、
特にここ1~2年は異常とも言える高騰ぶり。東京23区では平均価格が億ションです。
マイホーム購入が難しくなったファミリー層が、賃貸市場に流れ、
オーナーが強気の家賃設定をしているのかもしれません。
こうしたニーズに合わせて、ファミリー向け新築賃貸の供給が増えている面もあるでしょう。
募集家賃と成約家賃は違う。マンションとアパートの差にも注意
もう1つ別の角度から家賃相場を見てみましょう。
これまで紹介した【掲載家賃】と【反響家賃】は、
いずれも市場に出回っている物件情報をめぐる"気配値"とも言えます。
【反響家賃】は入居者ニーズを反映しているとはいえ、
実際に賃貸借契約が成立した家賃=【成約家賃】とは、必ずしも一致しません。
賃貸経営の観点から言えば、最終的にオーナーにとって重要なのは【成約家賃】です。
そこで、図2に成約家賃の推移を示しました(東日本レインズ調べ)。
こちらは、間取りタイプ別ではなく、建物種別のマンションとアパートに分かれています。
図1の市場家賃とはやや動きが異なるため、スパンを長く取っています。
まず、最も大きな動きをしているのが東京23区のマンション。
2019年からゆるやかに上昇し始め、2023年に入ると勾配が急になります。
5年間で約15%の値上がりです。
これに対して、東京23区のアパートは、多少の波はありますが、ほとんど上昇していません。
そのため、マンションとアパートとの格差が大きく広がっています。
横浜・川崎のマンションも東京23区と同様に、2019年からすでに右肩上がりになり、
2023年後半から少し上がり方が高めになっています。
また、横浜・川崎ではアパートも少し上昇気味で、マンションの動きを後追いしているようです。
ただし、アパートの上昇率はマンションに比べて、穏やかになっています。
以上の点から考えると、現在、「家賃相場が上昇している」というのは、
マンションの家賃がけん引しているといえるのではないでしょうか。
住戸の規模が大きいほど家賃単価・上昇率が高い
マンション家賃をさらに深堀りしてみましょう。
図3は、
中古マンションの成約家賃推移を床面積の規模別に示したデータです(日本不動産研究所等調べ)。
グラフ中の規模の違いは、大型タイプが専有面積80㎡以上、標準タイプが40㎡以上80㎡未満、
小型タイプが40㎡未満。
それぞれ、シングル、カップル・小ファミリー、ファミリーに対応すると考えてもいいでしょう。
また、23区全体と、さらに都心5区(千代田区・中央区・港区・渋谷区・新宿区)の違いも示しました。
全体として言えるのは、規模、地域によって、家賃の上がり始めの時期、上昇率が違うことです。
大型ほど家賃水準が高く、値上がりの勾配もきつくなっていることがわかります。
大型タイプは、2020年ごろから上昇を開始し、5年間の上昇率は25~30%に達するのに対して、
小型タイプはほぼ横ばい。中型タイプはその中間的な動きと言えるでしょう。
なお、ここで示した家賃の数値は、1㎡当たりの単価です。
1戸当たりではありません。
以前は、大型ファミリーよりもシングル向けの小型タイプの方が単価は高くなると言われていました。
キッチン・バス・トイレなどの生活に必要な住宅設備は住戸面積にかかわらず、
同じ種類を設置するからです。
規模が拡大しても、空間が広がるだけで、必要なアイテムは変わりません。
しかし、現在は大型タイプの方が単価も高くなっています。
シングル向けより大型ファミリーの方が、内装設備のグレードが高くなっているからでしょう。
ちなみに、都心5区では「大型→中型→小型」の順番に単価が低くなっています。
規模が大きくなるほど戸当たり家賃も高くなり、入居できるのは高額所得者で、
ハイグレードなスペックが求められるからです。
一方、23区全体で見ると小型より中型のほうが低くなっています。
リーズナブルな部屋を望むユーザーにとっては、23区の中型が最も割安と言えるかもしれません。
収益物件の利回りはどうなる?
最後に、参考のために収益物件の相場についても紹介しておきましょう。
図4-1は、区分マンション、いわゆる投資用ワンルームの価格と利回りの推移です。
価格は2022年半ばごろまで、やや下がり気味から横ばいで、その後急騰し始めました。
直近の2600万円は、2021年8月のボトムから60%近くの上昇です。
しかし、家賃の上昇が追い付いていないため、利回りは反対に下がっています。
ピーク時に比べて1%以上の低下です。
図3で示したように、小型タイプの家賃はほとんど上がっていません。
このまま価格が上がるとさらに利回りが低下し、収益性が厳しさを増すでしょう。
早晩、価格は頭打ちになると考えられます。
図4-2は、一棟アパートの動向です。
区分マンションと動きは似ていますが、ここ1年の動きが異なります。
価格上昇は2021年から始まり、反比例するように利回りは低下。
利回りが1%くらい下がったところで歯止めがかかり、2023年半ばに価格がピークを討ち、
その後は横ばいに転じます。
図2で示したように、アパートの家賃もあまり上がっていません。
こうした動きを反映しているのでしょう。
以上、様々な角度から賃貸市場の動きを解説してきました。
物件の種類、住戸規模・間取りタイプ、エリアによって状況は異なります。
幅広い視点で、マーケット情報をチェックするようにしましょう。