多くの賃貸オーナーにとっては、30歳未満の若者世代が主要なターゲットになるでしょう。
新築にしろ、リノベーションにしろ、プランづくりにあたっては、
こうしたいわゆる「Z世代」のニーズをつかむことは欠かせません。
今回は、Z世代の意識調査に関する新たなデータをもとに、
いま賃貸住宅に求められているニーズを深堀りしていきます。
コスパ・タイパ・スペパの"3パ"志向が強いZ世代
Z世代を象徴するトレンド・キーワードは次々に誕生してきます。
「タイパ」が、三省堂の辞書編集者が選ぶ新語大賞を獲得したのは2年前の2022年でした。
用語としては2010年代半ば頃から広告業界では使われていたと言われます。
まだ「タイパ」すら馴染めないうちに、昨年あたりから登場したワードが「スペパ」です。
いずれも「コスパ」の応用として作られた「〇〇パフォーマンス/〇〇対効果」の略語の一種です。
これらの用語にまだ馴染めない人向けに簡単に意味を整理すると...。
・コスパ:コストパフォーマンス/費用対効果。
かけたお金に対する満足度の高さ。
・タイパ:タイムパフォーマンス/時間対効果。
かけた時間に対する満足度(効率性)の高さ。
・スペパ:スペースパフォーマンス/空間対効果。
限られた利用空間に対する満足度(快適さ)の高さ。
新語と言われるキーワードですが、
考えてみれば、あの牛丼屋さんのCMで知られる「安い、早い、旨い」を
カタカナに直したような、庶民に普遍的なニーズと言えなくもありません。
さて、この3つの新語とZ世代の部屋探しがどう関係するのでしょうか。
調べていくなかで、賃貸仲介会社のハウスコムが8月にリリースした
「2024年度 部屋探しの意識調査」が参考になります。
部屋探しに関する意識の違いを、18~26歳のZ世代と、
それより年齢層の高い27~49歳(Z世代以外)に分けて分析したものです。
その中で「コスパ、タイパ、スペパ」がクローズアップされていました。
図1の通り、すべての項目で、Z世代以外よりもZ世代の方が敏感であることがわかります。
世代を問わずに「コスパ」を最も重視する傾向は変わりません。
ただ、Z世代以外の「コスパ」の割合と、Z世代の「タイパ」の割合がまったく同じ。
つまり、Z世代は、Z世代以外のコスパ並みにタイパを重視していることになります。
「タイパ」だけで比較すると、
Z世代とZ世代以外の落差は3要素の中でもっとも大きくなります。
Z世代の「タイパ」への志向の強さがうかがえるでしょう。
「スペパ」についても、「タイパ」に近い8割台です。
「コスパ・タイパ・スペパ」の"3パ"の揃った物件がZ世代にウケると言えるかもしれません。
スペパの重視項目は、収納・DIY物件・立体活用
「コスパ・タイパ・スペパ」について、もう少し具体的に見てみましょう。
同調査では、それぞれの要素に対応したZ世代に多い行動を次のように整理しています。
1. コスパ対策
コスパ対策として、穴場エリアやリノベーション物件、家具家電付き物件など、
家賃の割安な物件から選ぶ意識が、Z世代以外よりも高くなっています。
水道・光熱費を節約するために、冷暖房効率の良い部屋・追い炊き機能付き風呂・
ソーラーパネル付きオール電化物件を検討した割合も高めでした。
2. タイパ対策
タイパ対策は「移動時間」と「手間」がポイントになります。
まず、立地の面では、駅近でスーパーなどの周辺施設が近いこと。
物件自体の設備やサービス面では、24時間ゴミ出し可能、
宅配ボックスといったものが挙げられます。
「ゴミ出しの時間に縛られたくない」「在宅していても荷物の受け渡しで手間取りたくない」
といった意識があるのでしょう。
リモート操作できる自動お湯張り機能付きバスがある物件もチェックされています。
3. スペパ対策
スぺパ対策としては、限られた空間をいかに
有効活用できるかを重視しているようです(図2参照)。
プラン・仕様面で、最大のポイントは収納スペース。
部屋がモノであふれないようにしたいという意向です。
その他、家電の設置スペースを柔軟に決められるようにコンセントの数や配置が良いことや、
立体空間をうまく使えるように「天井が高い」「ロフト付き」なども好まれるようです。
また、自分なりの工夫で使い勝手の良いスペースを作りたいという意識が
「DIY 可能物件」に向かっているようです。
Z世代のサステナブル意識、実は高くない!?
今回のハウスコムの調査を見ていると、
実は従来のZ世代のイメージとは異なる実像も垣間見られます。
家具・家電選びの際に意識している項目を示した図3をご覧ださい。
マーケティングの世界では「Z世代はミニマリスト志向が強い」
「Z世代はサステナブル意識が高い」といった説明がされています。
実際はどうでしょうか。
まずミニマリストとは、「なるべく持ち物の数を少なくする」
「必要最小限のもので暮らす」といった価値観や生活スタイルのこと。
図3でミニマリスト志向の強さを観ると、Z世代が23.6%なのに対して、Z世代以外は29.1%。
似たような志向の「断捨離」についても、Z世代以外の方が高くなっています。
Z世代以外の方が、ミニマリスト志向が強いことがわかるでしょう。
一方、Z世代は「たくさん収納できる家具類を選ぶ」「壁面収納スペースを活用」の割合が高い。
つまり、モノをたくさん持っているので収納が充実した部屋を選ぶということです。
「サブスクリプション活用」の割合が高いのも、ミニマリスト志向ではなく、
「コスパが良いから」ではないでしょうか。
また、多機能な家具・家電、家具と一体化した"ステルス家電"を選ぶ割合が高いということは、
「スペースは節約したいけれども、新しい機能を持ったアイテムはほしい」
という意識が表れているのかもしれません。
「Z世代はサステナブル意識が高い」ことについても疑問です。
図3から、Z世代は、Z世代以外よりも「使い捨て志向」の割合が多いことがわかります。
サステナブル意識の1つとも言える「良いモノを長く大事に使う」という考え方とは、
反対の志向とも言えるでしょう。
Z世代のイメージと実態の違いを踏まえてプランづくりを
部屋探しに限らず、Z世代の消費行動についての傾向を調査したデータは他にもあります。
例えば図4は、ビジネス情報を提供するSVPジャパンの調査です。
Z世代と、その上のY世代の違いを示しています。
「買い物をする際に、社会や環境に良い商品を意識して選ぶようにしていますか?」
という問いに対して、「意識していない」が最も高く、
世代を問わずに50%近くに達しました。
Y世代に比べてZ世代の方が高いのは、
「どちらか迷ったら、環境に良い商品を選ぶ」という項目です。
おそらくZ世代が「環境に良い商品を選ぶ」理由は、
「価格が高くても品質が良ければ選ぶ」というより、
「コスパやタイパが同じなら選んでもいい」というニュアンスが強いのではないでしょうか。
つまり、優先順位はサステナブルより"3パ"というわけです。
ニッセイ基礎研究所が調査した
『サステナビリティに関する意識と消費行動』(2022年5月31日)でも、
サステナブル意識が高く、具体的な行動を実施しているのは
60~70代のシニア層が最も高いことが示されています。
20代では、サステナブル行動を実践している割合は低いのが実態で、
Z世代の一部に情報発信に積極的なインフルエンサーがいて、
彼らが「Z世代の環境意識の高さ」を印象付けているのではないか、と
同調査では分析されています。
Z世代をターゲットにした建築プランや企画を練るときには、
以上のような調査を参考にしながらも、メディアで流布されているイメージを鵜呑みにせず、
実態との違いを踏まえたうえで検討するようにしてください。