増え続ける空き家。最新動向と対策の行方は?

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年に1度調査される「住宅・土地統計調査」(202310月時点)の速報値が発表されました。
これを受けて、真っ先にニュースになるのが空き家問題です。
昨年12月に「改正空家法」が施行され、
今年4月からは「相続登記の義務化」がスタートしたことも、空き家の注目度を高めています。
最新の状況や対策の進み具合について解説しましょう。


放置空き家の比率は右肩上がり、賃貸用は減少?


51日の日経新聞に「空き家率最高13.8%」という見出しが躍りました。
「住宅・土地統計調査」速報集計の結果公表に合わせて発信される好例の行事です。

"放置空き家"というのは、賃貸用や売却用の空き家、別荘やセカンドハウスなどの
二次使用住宅といった使用目的がはっきりせず、
長期にわたって不在のまま放置された空き家を指します。
統計上は、2018年版までは「その他の空き家」というよくわからない名称になっていました。
2023年版では「賃貸用・売却用空き家及び二次使用住宅を除く空き家」となっています。
中身を明示した名称に修正されたことはいいのですが、冗長なため、
この記事では、簡易でわかりやすい「放置空き家」を採用して進めましょう。

まず、今回の速報値を基に、過去45年の空き家率の推移を見てみましょう(図1)。

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空き家全体が住宅総数に占める割合である「空き家率」は、2023年が13.8%と過去最高です。
この45年間、一貫して増加していて、45年前の7.6%から約1.8倍に達しました。
空き家の種類別に見ると、「放置空き家」の割合は、
空き家全体と同様にずっと右肩上がりの傾向で、45年間で約2.1倍。
一方、「賃貸・売却用空き家」の割合は、2008年をピークに減少しています。

賃貸・売却用の空き家率が下がっているということは、
賃貸経営を検討している土地オーナーにとっては追い風のように感じられるかもしれません。
「空室も深刻ではない」と考えがちです。
しかし、空き家率だけで判断するのは危険です。図2を見てみましょう。

図2.jpg

賃貸住宅全体の戸数がコンスタントに伸びる一方で、
賃貸用の空き家の増加戸数が少なめになっているために、
空き家率としては下がっている形になっているわけです。

空室が減って、マーケットが改善しているとはいえません。
むしろ、今回のデータは、放置空き家に関して、
戸数も比率も大きく上昇して深刻さが増していることを表していると言えるでしょう。


地域によって異なる空き家率の動き


空き家率を地域別に見ると、さらに面白いことがわかります。
13.8%というのは、空き家率全体の全国平均値です。
都道府県別のランキングを見ると、かなりの開きがあります(表1)。
空き家率が最も高い和歌山県は、最も低い沖縄県の約2.3倍もあります。
首都圏をはじめとする大都市圏が比較的低く、西日本の地方圏が厳しい傾向にあるようです。
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また、同じ大都市圏でも、空き家戸数の変化を見ると、
地域によっては状況がまったく異なることがわかります。
図3は、2023年の空き家戸数が、
前回調査の2018年から変化した割合=対前回変動率を種類別に示したものです。

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空き家率そのものでは、東京は比率の低いトップ5に入っていましたが、
対前回変動率では大きく増加しています。
特に「放置空き家」は19.4%も増加。賃貸用に比べて悪化している様子がうかがえます。
首都圏内でも、東京以外の賃貸用は減少しました。
埼玉県の動きが特徴的で、賃貸用は大幅に減っている一方で、放置空き家は増加しています。
神奈川県は放置空き家もそれほど増えていません。

近畿圏では、大阪府が埼玉県に似たような状況で、兵庫県が東京都に似ています。
このように、どこでどのような空き家があるかをチェックしないと実態はわかりません。


相続した空き家が大半。相続登記義務化で対策が進む


次に、空き家を持つに至った経緯や、今後の活用意向について、
中古戸建ての買い取り再販事業を手掛けるカチタスが実施した
「空き家所有者に関する全国動向調査」をもとに見ていきましょう。
(なお、賃貸・売却用か放置空き家かの区別はありません)

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空き家の取得経緯で、最も多いのは「相続」で、全体の8割近くを占めます(図4)。
注目すべき点は、相続のうちわけが単独相続と複数相続に二分されていること。
複数の子どもが親から相続したときに、
遺産分割をきちんと行わずに共有状態となっていることがうかがえます。

共有不動産は厄介です。
売るにしても貸すにしても、はたまた修繕するにしても、
共有者全員の合意がないと実施できません。
もし、共有者のうち誰か一人でも、行方不明になったり、認知症になったりすると、
まったく意思決定ができなくなります。

さらに共有者が亡くなって子や孫に相続されると、
共有持ち分がどんどん細分化され、利害関係者がねずみ算式に増えてしまい、
手の施しようがなくなるおそれがあるのです。
現に、身動きとれなくなった"共有空き家"が多数存在します。
相続しても登記しないまま長期間放置された挙句に、所有者不明になった土地も少なくありません。

こうした事態に歯止めをかけるために、今年41日から相続登記が義務化されました。
もしも正当な理由なしに登記申請を怠った場合は10万円以下の過料が課せられます。
相続登記の義務化を機に、空き家の対策がどう変わったかを示したものが、図5です。

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相続登記義務化に向けて登記法の改正が行われた2021年時点では、
「まだわからない」という回答が半数近くを占めていましたが、
昨年夏の段階では3分の1に、今年の実施段階になると5分の1まで減りました。
最も多い対策は「売却」ですが、「自分で利用する」の割合も高まっています。


空き家法の改正で、賃貸や自己利用の対策が増加


相続登記の義務化とともに、空き家対策の背中を押しているのが
「空き家対策特別措置法」(空き家法)の改正です。
空き家法は10年前の2014年に制定され、昨年春に改正が決まり、
12月に改正法が施行されました。

改正法のポイントは、空き家活用に向けたサポート体制の拡充というアメに加えて、
空き家解消に向けて規制強化をするムチの政策です。
従来は、周辺環境に危険や害をなすおそれがある「特定空き家」に指定されると、
修繕や解体の勧告ができ、それに従わないと行政代執行により
除却できることを定めたものです。

特定空き家に指定されるハードルが高いため、空き家解消の効果は限られていました。
そこで、「特定空き家」になるおそれのある予備軍を「管理不全空き家」と位置づけ、
行政から是正指導や勧告が行えるようにしたうえで、指導に従わずに勧告まで進んだ場合に
「固定資産税の住宅用地特例」の対象から外すことを定めたのが改正法です。
住宅用地特例がなくなると、固定資産税は最大6倍に急増するため、
センセーショナルに報道されました。

前述のカチタス調査では、この「空き家法」の改正前後で
対策の意向がどうかわったかも見ています(図6)。

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空き家対策の中身としては「売却」が一番多いのですが、法改正の前後で変化はありません。
改正後にやや増えているのは、「賃貸する」と「解体する」。
「自分や家族で使う」という新設項目が、「解体する」より高い割合を示しているのも目をひきます。
少なくとも、「まだわからない」という、
空き家対策に消極的な姿勢の人は着実に減っていることがわかるでしょう。

法改正の効果がどこまで出るか、今後の推移が注目されます。