「省エネ基準適合」がすべての建築物に義務付けられるまで1年を切ったタイミングで、
この4月から「省エネ性能表示制度」がスタートしました。
賃貸オーナーにどんな影響があるのでしょうか。
表示内容とともに解説します。
賃貸オーナーも関係する"半強制的"なルール
「省エネ性能表示制度」は、住宅と非住宅を問わず、
すべての新築建築物の販売・賃貸事業者に対して、
一定の表示ルールに則ったラベルを広告などに載せて消費者に示すことを求める制度です。
国の広報では「2024年4月以降、省エネ性能の表示が求められます」と表現されています。
2024年4月1日からスタートといっても、
5月末時点で省エネ性能ラベルを出している物件広告は見かけられませんでした。
表示の努力義務は、この4月以降に建築確認申請をした新築物件が対象になるからです。
実際に物件が市場に出て来るのは、早くて夏ごろ。
世の中に出回るのは、秋の住み替えシーズンくらいからになるでしょう。
省エネ性能ラベルの詳しい内容に入る前に、
「①賃貸オーナーにも関係するのか?」「②省エネ性能ラベルの表示に強制力はあるのか?」
この2点について押さえておきましょう。
「表示が求められる」という言い回しが実に意味深だからです。
① 賃貸オーナーに関係するのか?
建築物の販売・賃貸事業者というのは、
事業として継続的に販売や賃貸を行っている売主や貸主を意味します。
したがって、個人事業主として賃貸経営をしているオーナーでも、所有物件の募集をする際には、
省エネ性能ラベルを表示しなければなりません。
物件の再販・再賃貸も対象になります。
一括借り上げ契約をしている場合は、サブリース会社も賃貸事業者に含まれるわけです。
一般に、賃貸オーナーはダイレクトに入居者を募集するわけではありません。
不動産仲介会社や賃貸管理会社、ポータルサイト運営者などを通じて集客します。
しかし、これらの中間事業者は、表示に協力するという意味では関係しますが、
努力義務を課しているわけではありません。
あくまでも賃貸事業者である賃貸オーナーが主体です。
なお、自己使用の住宅やビルの施主、民泊やウィークリーマンションの経営者は、
表示する必要はありません。
② 省エネ性能ラベルの表示に強制力はあるのか?
基本的には「努力義務」です。
表示しなくても法律上の罰則はありません。
「努力義務」と言えば、たいていは「やらなくても問題ない」と軽く考えがちです。
しかし、今回の制度はかなり強制に近い"努力"を求められている点に注意してください。
もともと省エネ性能表示制度は、2015年に制定された建築物省エネ法に規定されました。
最初の条文では、「省エネ性能の表示に努めなければならない」という理念的な表現でした。
しかし、2022年に同法が改正され、
2025年4月から建築確認における「省エネ基準適合義務化」が決まるのと同時に、
省エネ性能表示制度の内容が強化されたのです。
具体的には、表示ルールに従わなかったり、表示そのものをしなかったりした場合は
「表示するように勧告できる」という規定が盛り込まれました。
「勧告されても罰則がなければ対応しない」という声も出そうですが、さらにその先があります。
勧告に従わない場合は、「事業者名を公表する」こと、
さらに悪質なケースは「勧告に従うことを命令できる」
「その建築物に関する業務報告を求め、建築物・帳簿などの立ち入り検査も行える」
という条文まであるのです。
"半強制"と言っても過言ではありません。
もっとも、省エネ性能ラベルを表示しないからといって、
すぐに「勧告→公表→命令→立ち入り検査」へとエスカレートするわけではなさそうです。
勧告等の行政指導については、
「当面は、事業者の取組状況による社会的な影響が大きい場合を対象に運用する」
(ガイドライン)とされています。
大手の事業者が実際と異なる誇大広告をしたり、まじめに表示している事業者の意欲を阻害したり、
一般消費者に混乱をもたらすようなケースが想定されているのでしょう。
とはいえ、「当面は緩めに運用する」といいながら、いつ締め付けが厳しくなるとも限りません。
個人オーナーも、省エネ性能ラベルの表示に積極的に取り組む姿勢をとっておいた方が良さそうです。
ひと目でわかりやすいラベルのポイントは3つ
次に、省エネ性能ラベルの具体的な内容に入ります。
図1は「住宅(住戸)」と左上に出ているように、住戸単位で表示するラベルの雛形です。
「どこかで見たことがある」と思うかもしれません。
家電製品の「統一省エネラベル」の表示ルールを踏襲しているため、似たようなマークになっています。
この他に、アパートやマンションなどの一棟単位、非住宅、住宅と非住宅の
複合建築物などのバリエーションもあります。
表示する要素としては、「住宅(住戸)」のラベルにほとんど盛り込まれていますから、
これを例に解説しましょう。
※出典:国土交通省「建築物省エネ法に基づく建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示制度」専門サイト。
項目横のアルファベットは編集部で加筆
表示項目のポイントは、「a.エネルギー消費性能」「b.断熱性能」「c.目安光熱費」の3つです。
このうちaとbが必須項目、cの表示は任意になっています。
その他の項目を含めた個々の内容については図2を参考にしてください。
まずaの「エネルギー消費性能」は、
省エネの程度が一目でわかるように★の数でレベルを表したものです。
建物内の設備機器が消費するエネルギーの量と太陽光発電などの創エネなどが総合的に考慮され、
6段階で示されています。
2016年に制定された現状の建築物に関する省エネ基準のレベルが★1つです。
省エネ基準から性能が10%アップするごとに、★の数が1つずつ増えます。
再生可能エネルギーの発電がない場合の最高ランクは★4つ。
省エネ基準より、エネルギー消費量が30%少ないことを意味します。
ちなみに省エネ基準の適合義務化が始まる2025年4月までは、
省エネ基準に満たない建物も出て来るかもしれません。
その場合は、★がゼロになるため、★がゼロから4つまでの5段階評価になります。
太陽光パネルなどの再エネ設備を付けて創った電力を自家消費すれば、
購入する電力などのエネルギー消費量はさらに減ります。
そのため、再エネ設備がある場合は、省エネ基準から50%削減される★6が最高です。
つまりゼロから6までの7段階評価になります。
bの「断熱性能」は建物本体の温熱環境に関わる基本性能の1つです。
冬場に暖房した室内の熱がどれくらい逃げ出しやすいか、
夏場に冷房した室内に陽射しの熱がどれだけ入りやすいかを測る指標をもとに、
7段階で示されます(非住宅の場合は指標の基準が異なります)。
cの「目安光熱費」は、1年間に消費すると想定される光熱費を表した金額です。
1人あたりの床面積を30㎡とし、標準的な住宅設備で消費される電力などの量に、
全国統一の燃料費単価を掛け合わせた数値のため、実際にその建物にかかる光熱費ではありません。
設備の内容、地域、使用状況、契約内容によって光熱費は異なりますので、
あくまでも同じような条件の建築物同士で比較するための指標と言えます。
ただ、一目でわかりやすいという点では、一般消費者に対してアピールするうえで有効でしょう。
任意表示ですが、なるべく盛り込むべきです。
その他では、ZEH(ゼッチ)に該当するかどうかの項目も併記されています。
省エネ基準適合が義務化される5年後、
2030年にはZEH水準を義務化することがすでにロードマップに載っているため、
なるべくZEHの認知度を高めようという意図でしょう。
再エネ設備がない場合の項目がアルファベット表記の「ZEH水準」、
太陽光パネルがある場合はカタカナ表記の「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス」
と書き分けている点も、何か作為を感じると言ったら言い過ぎでしょうか。
目安光熱費が"コスパ重視"のZ世代にアピール?賃貸オーナーにもメリット
すべての建築物に対して省エネ性能の表示が、
努力義務とはいえ大々的に導入されたのは今回が初めてです。
過去にも同様の仕組みはありました。
最初は、2000年にスタートした品質確保促進法(品確法)に基づく住宅性能表示制度です。
住宅に関わる10の基本性能の中に省エネ関連も含まれています。
しかし、任意の制度だったため、性能評価書の交付割合は未だに3割に達しません。
これはすべての住宅を含めた数値のため、賃貸住宅に限ればもっと低いでしょう。
BELS(Building-Housing Energy-efficiency Labeling System:建築物エネルギー消費性能表示制度)
は2014年に非住宅を対象にスタートし、2年後に住宅にも拡大しました。
ZEHやZEBの評価もその後まもなく始まっています。
ただ、このBELSも任意の制度で普及率はいまひとつでした。
これまで各種の性能表示の普及率が高まらなかった理由の1つとして、
高い建築コストをかけて省エネ性能をアップしても、
買い手や借り手に対してアピールする効果が弱かった点が挙げられています。
性能表示のインセンティブが働かなかったわけです。
今回の省エネ性能ラベルは、どうでしょうか。
4つの理由で、既存の表示制度に比べれば普及率は高くなると予想されます。
第1は、前述のように"半強制"のため、ほとんどの事業者は表示するようになること。
第2に、SUUMO、LIFULL HOME'S、アットホームなどの主要ポータルサイトの運営事業者も、
このラベルを物件広告・概要欄に入れると表明していること。
ネットで物件探しをする買い手や借り手がラベルを目にする機会も増え、
以前よりは省エネ性能に対する注目度も高まるため、ラベル表示の意欲も出てくるでしょう。
第3に、いわゆる"Z世代"が賃貸需要の主流になりつつあることです。
従来は、省エネ性能のランクはわかっても、
それが家計にどれだけ影響があるかはわかりませんでした。
今回のラベルが普及すれば、目安光熱費で "コスパ"の良しあしを判断できるようになります。
家賃だけでなく、目安光熱費が部屋探しの重要な指標の1つに格上げされる可能性も高いでしょう。
最後に、土地活用で賃貸住宅を建てようと考えているオーナーにとってのメリットです。
省エネ性能を高めるために建築コストがかさんで家賃が高めになったとしても、
光熱費が低ければトータルの負担は重くなりません。
ラベルを表示して、光熱費が抑えられるコスパの良さを前面に出せば、
入居者募集の際に競争力を保てます。
以前は、省エネ性能の向上に後ろ向きだったオーナーが、
攻めの姿勢に転じるキッカケになるかもしれません。