知っておきたいアパート建築の段取りとスケジュール

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アパート経営を検討し始めてから、建物を建築して、実際に賃貸経営をスタートするまでには、
どのくらいの期間がかかるのでしょうか。
アパート建築の一般的な段取りとスケジュールを紹介します。


小規模なアパートなら1年半程度が目安


初めてアパート建築に取り組む人の中には、
「簡単な打ち合わせを1回しただけなのに、もう仮契約を迫られている。これって一般的なの?」
といった不安を持つ人がいるようです。
時間効率は良いものの、満足度は高くないからかもしれません。

逆に「プランの打ち合わせに何カ月もかかっている。無駄な時間をかけていない?」と、
効率の悪さを感じているかもしれません。
実際に長すぎる場合もあれば、アパート建築の経験者からすれば
「それぐらい普通。不満を抱く必要はない」とわかる場合もあるでしょう。

通常、構想を立ててから建物が完成して賃貸経営を始めるまでのスケジュールは、
建物の規模や工法によっても違います。
総戸数が10戸以下で2~3階建ての小規模なアパートを更地に建築する場合は、
短いと1年数カ月、長ければ2年以上。
おおよそ1年半くらいかかることが標準的と想定できるでしょう。

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これではあまりにもざっくりした数字なので、その内訳を知ることも大切です。
どのような段取りで進めればいいのか、具体的なスケジュールを図1に示しました。
大きく「A.事前準備」「B.会社決定・設計」「C.建築工事・募集活動」の3つのくくりがあり、
さらに細かいステップがあります。
それぞれ次から解説しましょう。


A.事前準備/オーナー自身の方針決定から資金計画まで


アパート建築を思い立った土地オーナーのなかには、
いきなり住宅展示場のハウスメーカーを訪ねたり、ネットで一括見積もりを依頼したり、
すぐに施工会社に接触してしまうケースがあります。
しかし、これでは相手のペースで進められ、
「気が付いたら希望とまったく違う建物が建っていた」なんてことになりかねません。
その前にオーナー自身で下準備をすることが重要です。

建築目的の決定、情報収集

アパート建築の場合は、オーナーによって、相続対策だったり、
所得税や固定資産税の節税を目指したり、
はたまた老後を見据えた安定収入の確保だったり、目的は様々。
まずは賃貸経営を始める目的を明確にして、
そのために必要な建築と賃貸市場に関する基礎知識を得るために情報収集をします。
アパート経営の事業収支計画を自分で立てられるぐらいのノウハウを身に付け、
"理論武装"をしましょう。

基本計画の決定

次のステップでも、施工会社には接触するのは時期尚早。
手持ちの土地に、どんな構造・規模の賃貸住宅を建てるかという方針を、オーナー自身で立案します。
例えば、相続対策なら、土地の一部を納税資金に充てる売却用とし、
残りのスペースにローコスト・アパートを建てる、あるいは目的が収益性アップなら
土地の容積率ギリギリの鉄筋コンクリート・マンションを建てるなど、
目的によって方針は変わるでしょう。

この基本計画がオーナーの頭の中でしっかりしていない段階で、
施工会社にいきなりコンタクトを取ってしまうと、
各社が得意な工法で売り上げを最大化するプランを提案される可能性が高いでしょう。
その良し悪しも判断しにくいかもしれません。

資金計画・事業収支計画の検討

基本計画で描いた建物の規模・構造をもとに総事業費を想定して、資金調達を検討します。
自己資金はいくら用意でき、どのくらい融資を受けられるか。
金利や返済期間などの融資条件はどうかなど、取引のある金融機関に相談しても良いでしょう。
この予算をもとに、自分なりの事業収支計画を立てられればベターです。

ここまでのステップで、通常は3~4カ月はかかるのではないでしょうか。
相続対策で家族との話し合いが必要な場合はもっとかかるかもしれませんし、
オーナーの経験やノウハウ次第では1~2カ月に短縮できるかもしれません。


B.会社決定・設計・契約/アパート経営のカギを握る最大の山場


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オーナーとしての事前準備が整ったら施工会社へのアプローチを始めましょう。
このBの段取り次第で、アパート経営の成否が決まると言っても過言ではありません。
なぜならプランが決まって建築工事請負契約を結んでしまうと、後に引けなくなるからです。

Bのカテゴリーでは、実は発注の仕方によって、さらに細かいステップが変わります。
建築家や一級建築士事務所にプラン作りを依頼する「設計・施工分離」の場合と、
住宅メーカーや工務店に一括して頼む「設計施工一体」の場合です。
ここでは詳細は省きますが、図2を参考にしてください。
前者の方が、期間は長くなります。
図1で示した期間は、設計施工一体の場合を念頭に置きました。
設計・施工分離の場合は、数カ月プラスになるでしょう。

建築プラン・見積もり検討

複数の施工会社から資料を取り寄せて技術やデザインの特徴を知ったうえで、
いくつかの会社にあたって希望条件を伝えます。
何度かの打ち合わせを経て、ラフプランと概算見積もりが出されるわけです。
あまり多くの会社に接触しすぎると、比較検討も難しいかもしれません。
相見積もりを取って比べるまでに3社程度に絞るのが賢明でしょう。

設計・施工分離の場合は、設計事務所がプランを練り、
見積もり合せの前提として共通仕様書を作成してくれます。
見積もりの内容のチェック、アドバイスも専門家の視点から得られるでしょう。

施工会社決定・契約 / ⑥ 本設計・建築確認申請

施工会社は単に建物を造るだけでなく、アフターサービスも含めれば、
長期間にわたって賃貸経営を支えるパートナーとも言えますので、慎重に決定しましょう。
そして、工事請負契約に進む前に、実際に施工できるレベルの詳しい図面を作成し、
設備仕様も含めた精密な本見積もりを改めて作成します。

住宅メーカーの場合、この段階で「仮契約」を結び、5~10万円の申込金や、
着手金として見積もり額の10%程度を求めるケースも少なくありません。
「仮」とついていても、法的には契約の効力があるので、サインする場合は注意してください。

詳細な設計図面ができ、総事業費を確定して、事業収支計画に問題がないと判断できたら、
いよいよ工事請負契約になります。
契約を結んだ後に設計変更や追加工事を頼むと、予算や工期にも影響しますから、
契約までに最終プランを確定できるように打ち合わせを密にしておきましょう。
その後は建築確認申請の手続きを進め、許可が下りて着工を待つのみです。

Bのプロセスで半年前後はかかると考えられます。
良いプランを作るためにも、ここではあまり"時短"を意識しない方が良いかもしれません。


C.建築工事・募集活動/賃貸経営に必要なハードとソフトが同時進行


賃貸住宅はオーナー自身が住むわけではないため、着工後は施工会社に任せきりになり、
オーナーの出る幕は減ると思うかもしれません。
しかし、ハード面の建築と並行して、
賃貸経営というソフト面での準備も進めるため、意外に大変です。

着工・役所検査・工事監理

建築工事が始まると、役所検査や工事監理の業務がスタートします。
設計・施工分離の場合は、建築家や設計事務所が第三者の目線で工事監理をするため、
施工品質に心配は少ないでしょう。
ただ、設計施工の場合は施工会社の社員や系列の設計担当者が監理します。
チェックが甘くなる可能性もあるので、
オーナーも関心をもって時おり現場に顔を出して職人をねぎらいつつ、
手抜きや工期の遅れが出ないように目を光らせたほうが良いでしょう。

管理委託契約・入居者募集開始

建物の骨組みが立ち上がる上棟あたりから、忙しくなります。
賃貸管理を委託する管理会社を決めるか、自主管理の場合は不動産仲介会社に当たりをつけ、
竣工時期を見据えながら入居者募集の活動を始めます。
竣工後に即満室スタートを目指して進めましょう。

竣工・施主検査・残金決済・引渡し

建物が竣工すると、建築確認申請通りに建てられているかを調べる役所の完了検査、
オーナーの施主検査を経て、手直し工事が済んだら引き渡しとなります。

最後のCのステップでも、小規模なアパートで半年程度はかかるでしょう。
鉄筋コンクリート(RC)造のマンションの建築工期は「階数+3~5カ月」と言われていますから、
構造・規模によっては、さらに数カ月から半年以上を見ておく必要があります。

また、残金決済をして建物の引き渡しを受け、
所有権を登記して初めて入居者との賃貸借契約を結べるようになります。
したがって賃貸契約のスタートは、「建築工期+1~2カ月」と考えておいた方が良いでしょう。


建て替えの場合は立退き交渉・建物解体の期間もプラス


以上のスケジュールは、何も建っていない更地に建築する場合の期間の目安です。
古いアパートが建っているところを建て替える場合は、
立退きや解体の期間がかかってくることに注意してください。
立ち退き交渉のプロセスは図3の通りです。

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各ステップにかかる期間としては、事前調査は2週間~1カ月、入居者との折衝期間は3~10カ月、
調停の場合は6カ月~1年半、裁判になる場合は1~2年と言われています。
一筋縄ではいかないことを覚悟しておきましょう。