Z世代の志向から読み取る部屋探しニーズと賃貸プラン

賃貸住宅のプランづくりや入居者へのアピールの仕方を考えるとき、
賃貸市場の主要ターゲットである若者シングル層のニーズを踏まえることが大切です。
Z世代とも呼ばれる "UNDER30"(30歳以下)層が住まいに求める価値観やライフスタイルを、
タイプ別に分析したアンケート調査を基に読み解きます。


Z世代が広さを求める理由は"推しスペース"!?


部屋探しのニーズを把握するとき、従来は「人気設備ランキング」がよく取り上げられてきました。
賃貸住宅の新築やリフォームのプランを検討するうえでは、非常に役立ちます。
ただ、価値観やライフスタイルが多様化するなかで、
人気の設備を採り入れただけでは高い稼働率を維持できるとは限りません。

これからは、他と差別化できるコンセプトを打ち出すことが大切だと言われます。
しかし、従来の調査にあるような「学生か社会人か/男性か女性か」といった
属性ごとのニーズがわかっても、なかなか具体的なコンセプトは浮かびにくいでしょう。
どんな特徴を出せばいいのかを考えるうえで参考になるのが、
今回取り上げるアットホームの「ユーザー動向調査 UNDER30 2023 賃貸編」です。

はじめに、調査対象になったUNDER30(全国の1829歳の学生・社会人男女)の
居住状況について見てみましょう。
図1は、現在住んでいる部屋の間取りを示したグラフです。
10年前と比較しています。

*調査対象はシングル中心と思われますが、未婚・既婚の別は言及されていません。


図1.jpg


学生・社会人ともに、もっとも多いのは1Kです。
シングルでもワンルームより1Kの人気が高いと言われる状況を反映しています。
ただ、10年前と比べると、1Kの割合は減り、1DK1LDKの割合が増えている点にも着目しましょう。
ワンルームも意外に減っていません。
より広い部屋を求める志向と、
家賃を抑えるために狭いワンルームでも我慢しようという層に二極化しているとも考えられます。

広さを求める理由は、コロナ禍をきっかけに在宅ワークやリモート授業が増えて、
部屋のスペースが必要になった点が挙げられるでしょう。
もう1つ、同じアットホームの「Z世代のライフスタイルに関する調査」(20231月)も
示唆に富んだ事実を教えてくれます。

同調査では、一人暮らしのZ世代の約半数が"推し活・オタ活"をしていると回答し、
そのうち割(全体の2割)が"推し"のためのスペースがあると紹介されています。
Z世代の5人に1人と言えば、かなりのボリュームです。

ちなみに"オタ活"は、SFや漫画・アニメを愛好する、いわゆるオタク活動。
"推し活"とは、好みのアイドルやキャラクターのライブやイベントへ参加したり、
グッズを購入したりして応援する活動のことです。
この"推し活"に関わる応援グッズの収納や記念品を飾るスペースを
部屋の中に確保しているというわけです。
"推しスペース"の面積は、半数近くが4㎡(約2畳半)以上になります。


意外! 「美術館」「神社・お寺」「川や海」を「あると便利な施設・場所」に選んだタイプとは?


さて、本題です。
UNDER30の調査では、ライフスタイルや価値観を次の8タイプに分類しています。

タイプ別表.jpg


それぞれのタイプごとに、「住まいの周辺にあると便利だと思う施設・場所」の
上位に挙がった項目の特徴を示したのが図2です。
全体平均の1~3位は、スーパーマーケット、コンビニ、ドラッグストアの順番。
部屋探しで重視される一般的な生活利便施設がトップ3となり、特筆する点はありません。
これに対して、タイプ別の方は、各項目の全体平均との差が大きい順番に示してあります。

図2.jpg


薄い黄色で示した項目は、よく出てくる便利な周辺施設でしょう。
安心・安全を求める「セキュリティ重視の慎重派」、快適な環境を求める「街も部屋も居心地重視派」
希望条件の多い「あれもこれもよくばり派」の3タイプは、
金融機関、交通アクセス、買い物施設という定番の項目が挙がっています。
スタンダードな回答です。

注目されるのは緑色の項目。
なかでも、おしゃれ好きな「トレンド重視派」、自分らしいスタイルを追求する「趣味全力派」、
いわゆるミニマリストの「必要最小限派」で、
「美術館」(濃い緑)が1・2位に入っていることです。
美術館と言えば、次の項目で見る「あると楽しくなる施設」と思いがちですが、
「あると便利な施設」の上位になっています。
暮らしに癒しをもたらすアートに接することが日常になっているのかもしれません。
「必要最小限派」の2位に「生花店」が入っているのも、
なるべくモノを持たずに部屋をシンプルに保ちつつ、
一輪の花で空間に潤いをもたらしたいという思いの表れでしょうか。

ユニークなのは「トレンド重視派」の3位に入っている「神社・お寺」。
通常は、観光スポットか冠婚葬祭にかかわる施設と思われがちですが、
近年は神社・お寺でもらえる「御朱印」をコレクションすることが若者の間でも浸透しており、
そういったトレンドがこのランキングに影響していると思われます。
こうしたニーズがあるということは、
入居者募集の広告に、周辺施設の1つとして「神社・お寺」を掲載するのも意義がありそうです。

タイパ(タイムパフォーマンス/時間効率)やコスパを重んじる
「堅実ライフ派」のトップが「川や海」というのも意外です。
これも娯楽としてではなく、生活の一部として捉えていることがわかります。
効率重視のため、川辺や海辺でボーっと過ごすわけでもないでしょう。
気分転換に部屋を出て、川や海で音楽や動画を"ながら見"するのかもしれません。
こうした自然環境も、部屋探しをする若者の関心があることを覚えておきましょう。


銀行や郵便局で楽しくなる理由とは?UNDER30の意外過ぎるニーズ


同じ調査で「あると楽しくなる施設」についてもタイプ別に分析しています。

こちらはプラスアルファとして近くにあると暮らしが楽しくなるというところです。
全体平均のトップ3は、カフェ・喫茶店、映画館、カラオケ店と、無難な箇所が挙がっています。
薄い黄色で示した部分も、この設問の答えとして常識的に出てきそうな項目と言えるでしょう。

一方で、タイプによって不可思議な項目もランクインしています。
まず、薄い緑色の項目は、どちらかといえば前章で「あると便利な施設」、
部屋探しの際に必須の施設として挙がるのが一般的。
Z世代では「あると楽しくなる施設」に入っているのは、これはどういった理由なのでしょうか。

例えば、「堅実ライフ派」の3位に入った「銀行・ATM」。
若い世代を中心に、キャッシュレス決済やオンライン取引のクレジット決済が普及しているため、
以前ほど日常的に金融機関には行かなくなっていると思われます。
金融機関に行くと楽しくなるというのは、何を目的にしているのでしょうか。
昨今、銀行のスリム化で小規模な支店が統廃合され、比較的大きな店舗では、本来の銀行業務の他に、
資産運用や保険の無料相談、セミナーなどを企画する例が増えているため、
"堅実ライフ"を実現しようと、こうしたサービスを受けに行くのかもしれません。

「トレンド重視派」の3位である「郵便局」は、フリマアプリを使って、
取引したグッズを郵送するのに活用するという面もあるでしょう。
2023年夏の期間限定で、日本郵政が渋谷に「ズッキュン♡郵便局」をオープンしたことがありました。
手書きのハガキ・手紙から縁遠いZ世代をターゲットに、
その場で撮影したプリントシールをオリジナル切手にできる「ズッキュン切手プリ」、
ハート形レターなどのサービスを提供したもの。
こういった楽しいイベントが様々なエリアで開催されている可能性もあります。
「テクノロジー好き・スマートライフ派」の3位「実家」は、
普段はデジタル・デバイスに囲まれたZ世代が、
ときに実家に帰ってほっこり楽しむのかもしれません。

以上のように、どのタイプがどんなニーズを持っているかがわかると、
生活利便施設があまり充実していないエリアでも、
周辺環境を改めて見直してみると意外なアピールポイントを見つけられるのではないでしょうか。
様々なイメージをしながら、入居者を惹きつけるプランやコンセプトづくり、
集客の工夫などを考えてみてください。