賃貸オーナーが知っておきたい地震対策

世界に冠たる"地震大国日本"――ありがたくないフレーズを、
1年のうちでもっとも気が緩む元旦に改めて思い知らされた能登半島地震。
甚大な被害の中には賃貸住宅に関わるケースも多数含まれるでしょう。
大地震に見舞われたとき、賃貸オーナーがどう対応すればいいのか、
災害に備えて知っておきたい対策をまとめました。


地震発生!その時、賃貸オーナーがとるべき行動は?


石川県内の賃貸管理会社が、正月休みを返上して管理物件の被害対応に奔走している様子を、
全国賃貸住宅新聞は1月発行の紙面で複数回に渡って伝えています。
こうした報道を踏まえ、震災に見舞われたとき、
賃貸オーナーがどう対応すべきかについて整理してみました。

〇 入居者の安否確認と所有物件の被害状況の把握

人命を第一に考えることは言うまでもありません。
そのうえで、現地に行ける場合は、安全を確保しながら所有物件を訪れて確認しましょう。
入居者の安否、ライフラインの状況、建物設備の損傷の程度、
この3点が必要なチェック項目です。
水や非常食の備蓄があれば、必要に応じて配布します。

自主管理の場合は賃貸オーナー自身で行う必要があります。
委託管理の場合は、管理会社と連絡を取り合って手分けして行う形になるかもしれません。
管理会社が独自に動いてくれる場合もあるでしょう。
ただ、受託管理物件が多い場合は、
自分の物件を優先してチェックしてくれるとは限りません。
日頃から万一のときにどう連携するかを打ち合わせておく必要があります。

入居者から問い合わせが殺到することも予測されます。
通信状況が悪くて電話が通じないケースも少なくありません。
そういった場合に備えて、SNSや入居者用アプリなど、
複数のチャンネルを用意しておくと役立ちます。
入居者が室内や建物周りの様子を撮影できれば、
スマートフォンなどで送信してもらうと良いでしょう。
正確な状況把握もしやすく、後の保険請求や補助制度への申請の際の証拠にもなります。

震源地から離れた場所で、液状化により道路や建物敷地の
地割れ、陥没、隆起などが起きるケースもあります。
震度が低いエリアに物件を所有していたとしても、こうした確認作業は欠かせません。

〇 水漏れ、設備故障の応急対応

建物に大きな損傷がなくても、
地震によって水漏れや設備故障は多発しているため、応急処置を手配します。
事業者には修理依頼が殺到するため、本格的な補修には時間がかかりますが、
漏水や漏電による二次被害を防ぐための一次対応を急ぐ必要があるでしょう。

今回の能登半島地震が発生したような長期休暇の時期には、
帰省中で不在の住戸も多いと思われます。
被災状況によっては入居者が自己判断で避難所に身を寄せている場合もあるでしょう。
不在中に合鍵で部屋に入って処置をしなければならない場合は、
事前に実家や保証人、緊急連絡先を通じて連絡を取らなければなりません。

管理会社の中には、災害対策チームを急遽結成し、
社員が総出で対処したというニュースが出ていました。
会社のホームページに被災者専用の特設コーナーを設け、
被害状況を発信したり、設備故障への対応マニュアルを公開したりして、
入居者自身で一次対応を取れるように誘導している管理会社もあります。
積極的な情報提供は、入居者の不安を払拭することにつながるでしょう。


賃貸オーナーとして、復旧に向けて支援できる「みなし仮設住宅」


賃貸オーナーの所有物件が全壊や大規模半壊によって住める状態ではなくなった場合は、
どうなるのでしょうか。

建物全体が完全に滅失した場合は、原因が何であれ賃貸借契約は終了します。
半壊の場合、雨露がしのげるとしても、ライフラインが止まり、
設備故障で通常の生活ができなくなれば、賃貸借の目的が達成できません。
それによって入居者に損害が発生したとしても、
自然災害が原因の場合はオーナーに責任はないため、
損害賠償の義務はないとされています。

ただ、法的義務とは別に、被災していない空室物件があれば、
一時的に避難できる場所として提供するなど、
何らかの形で入居者のサポートをする賃貸オーナーもいます。
今回の地震でも、期間限定で空室を無償提供する不動産会社や管理会社が複数いました。
仲介手数料を無料にしたり、
仲介した物件の家賃を6カ月間半額にすると表明したりした例もあります。

災害救助法が適用された市町村では、
「賃貸型応急住宅」の制度を活用する方法もあります。
能登半島地震でも同法が適用され、
石川県では全宅連やちんたい協会を通じて数千個の「賃貸型応急住宅」を準備しました。

賃貸型応急住宅は「みなし仮設住宅」とも言われます。
自治体と不動産関連団体が協定を組んで、
団体に所属する不動産会社・管理会社があっせんした貸主の了承を得て、
自治体が物件を借り上げて被災者に住まいを無償提供する仕組みです。
オーナー・行政・被災者(入居者)の三者間で、
入居期間が最長2年間の定期建物賃貸借契約を締結します。
契約関連費用や家賃は自治体が負担しますので、
賃貸オーナーは賃料収入を得ながら被災者のサポートができるというわけです。


被災時の損害を最小限に抑える事前の備え


万一地震が起きた場合に備えて、賃貸オーナーが事前に行える対策については、
次の3つのポイントが考えられます。

1.災害危険度に応じて耐震性の高い建物を建てる

2.地震保険に加入する

3.建物・設備のメンテナンスを徹底する

それぞれのポイントを解説します。

1.災害危険度に応じて設計、耐震性の高い建物を建てる
土地活用でこれから賃貸住宅を建築しようと検討している場合です。
土地がある地域の災害危険度を把握するために、
自治体が公開しているハザードマップを確認して、
地震・津波・洪水などによる被害予測を踏まえて、
建物を設計・建築することが何よりも重要でしょう。
賃貸借契約に先立つ重要事項説明でも、
津波や土砂災害の警戒区域内にあるかどうかや
水害に関するハザードマップの説明が義務付けられています。

建物の耐震性は、図1の3段階に分かれています。
耐震等級1は、
震度6強の大地震でも倒壊を防ぐことができるので人命を守ることはできますが、
建物が大きく損傷する可能性があるレベルです。
復旧に多大なコストがかかり、賃貸経営が継続できなくなるかもしれません。
建築時にコストが高くなっても、耐震等級2以上を目指すのが賢明でしょう。
耐震等級3を標準仕様にしている住宅メーカーも珍しくありません。
耐震等級に応じて地震保険の保険料の割引もあります。

図1.jpg


2.地震保険に加入する
火災保険契約者のうち地震保険を付帯している割合は約70%と20年で倍以上になりました。
全世帯に対する加入率で見ると35%に止まり、
まだまだ利用者の割合は伸び悩んでいるようです(図2参照)。

図2.jpg


地震保険の内容についての詳細情報はネット上でも豊富に出ていますので、
ここでは割愛します。
以下に地震保険の特徴と勘違いしやすい点をまとめました。

民間金融機関から融資を受ける場合、
火災保険への加入は義務で、地震保険への加入は任意。
地震保険単独では加入できません。

火災保険では、地震後の二次被害による火災、噴火や津波の被害は補償されません。
なお、地震・噴火などが原因の火災で半焼以上の被害を受けた場合に、
火災保険金の5%相当額が支給される「地震火災費用保険金」の特約が
付保されている例もあります。
ただし、金額は見舞金程度のため、地震で被害を受けた建物への補償にはなりません。

→これが地震保険に加入する最大の意義となります。

地震保険の保険金額は火災保険の最大50%までが原則。
これは、地震保険の元々の目的が生活再建の立て直しであり、建物の再建ではないため。
これが地震保険の加入率が伸び悩む最大の要因の1つです。

100%までアップできる地震保険上乗せ特約
(地震火災費用特約/地震危険等上乗せ補償特約)もある。
保険料はかさみますが、建物再建も可能です。

地震保険の契約金額の上限は、建物が5000万円、家財は1000万円。
建物の5000万円は1棟当たりではなく1戸あたりのため、
賃貸住宅の場合は戸数を掛けて算出。

火災保険は実際にかかる費用に応じて支出するため、
被害状況を正確に精査して修理見積もりを取る必要があります。
地震保険は、保険会社の調査員が行う4段階の被害区分に応じて定額で支払われるため、
保険金の支給までスピーディー。
早ければ1週間で支払われます。
全壊した建物の再建はできませんが、解体して次の復興に向かう力にはなるでしょう。

地震保険は住宅のみ(併用住宅も可)

事業専用建物(オフィス・店舗・工場など)は、
法人専用の火災保険に地震危険補償特約(地震拡張担保)を付ける。
なお、火災共済の場合には、住宅・店舗・事務所・工場を対象にしているタイプもある。

以上の点を総合的に考えれば、賃貸マンション・アパートのオーナーは
地震保険に加入する意義が大きいと言えるのではないでしょうか。

3.建物・設備のメンテナンスを徹底する
消防用設備は設置してあっても、劣化していたり故障したりして、
いざというときに稼働しなければ災害時の被害は防げません。
消防法では、消防用設備について、半年に1回の機器点検、
1年に1度の作動テストを義務付け、さらに3年に1度、
消防署への点検結果報告を義務付けています。

もしも、点検を怠ったことで火災時に消防用設備が正常に機能せずに死傷者が出た場合は、
オーナーの責任が問われます。
定期的な点検、内容の把握、不具合の補修を徹底しておきましょう。

ちなみに、「点検報告率」は、
2020年3月31日時点の全国平均で48.9%(消防庁調べ)に止まります。
1000㎡以下の小規模な共同住宅など、一定の条件に合う建物は、
賃貸オーナーが自分で点検することも可能です。
消防庁のホームページで、
無料でダウンロードできる「消防用設備等点検アプリ」が公開されています。
これらを活用して点検報告をしてみてはいかがでしょうか。

発生してからのリスクを考えても、賃貸オーナーは日ごろから災害対策を立てて、
いざというときに備えておくことが賢明です。