賃貸経営を始めてからかかる税金の基本とは

土地活用の大きな目的の1つが節税対策です。
対象となる主な税目は、相続税、所得税、固定資産税の3つでしょう。
このうち、賃貸経営を始めてから毎年かかるのが、収益に対する所得税や法人税と、
不動産にかかる固定資産税などの保有税です。
これらの項目について解説します。


個人所得への最高税率は55%!所得税の累進税率の脅威


会社員の場合、所得税・住民税は会社から源泉徴収されるため、
本人は課税の仕組みについてよく知らないかもしれません。
賃貸経営を個人で経営しているオーナーの中にも、
確定申告を税理士に任せっぱなしで詳しく把握していないケースもあるでしょう。

「家賃収入は上がっているはずなのに、思ったより手取りが増えない」
「家賃収入は変わっていないのに、なぜか手取りが減っている」
と疑問に感じているとしたら、課税の仕組みを理解していない証拠です。
基本的な仕組みを知らないと対策も立てられません。
ここでは最小限、知っておきたいポイントを紹介しましょう。

個人事業主として賃貸経営をして収入を得ていると、国税の所得税、地方税の住民税がかかります。
課税の基になるのは、家賃収入から経費を差し引いた不動産所得です。
確定申告の際には、会社員や会社経営者を兼業している場合、給与所得など、
その他の所得をすべて合算した合計所得金額を計算しなければなりません。

そして、家賃収入と手取り額との関係を左右するのが、所得税の累進税率です。
図1のように、課税所得金額に応じて、最低5%から45%まで段階に分かれています。
住民税は所得金額にかかわらず一律10%です。
そのため所得税・住民税を合わせると最高55%となり、
所得の半分以上を税金で引かれてしまう仕組みになっているのです。

「家賃収入が上がっているのに、思ったより手取り額が増えない」と感じるのは、
所得が増えても税率が高くなって税負担が重くなる仕組みになっているからです。
所得が高くなるほど基礎控除や配偶者控除といった所得控除は縮小される一方で、
社会保険料が高まっていることも、負担感が膨らむ要因でしょう。
個人事業主に対する課税強化の傾向が強まっています。

図1.jpg




青色申告なら特別控除や優遇措置で節税できる


所得税の負担を感じているなら、申告方法を見直してみましょう。
所得税の確定申告には、2種類の方法があります。
一定の形式に則った帳簿が義務付けられる青色申告と、それ以外の白色申告です。
白色申告は特別な手続きが不要ですが、
青色申告を行うには事前に税務署から承認を受けなければなりません。

しかし、青色申告は手間がかかる反面、図2のように、
最大65万円の青色申告特別控除をはじめとする様々なメリットがあります。
これらの優遇措置を活用すれば課税所得を圧縮できるため、税負担も軽くできるでしょう。

図2修正版.jpg


青色申告特別控除の適用条件の1つに「事業的規模」で運営していることがあります。
これは、住宅・非住宅を問わずに「独立家屋で5棟以上、
アパートやマンションなどの共同住宅で10室以上」です。
いわゆる「5棟10室」という形式基準があると覚えてください。

ちなみに、経営している賃貸住宅が事業的規模になると、事業税もかかります。
ただし、所得税に関する事業的規模は「5棟10室以上」と紹介しましたが、
事業税の場合は、賃貸住宅の一戸建ては10棟以上です。
例えば、戸建て賃貸を6棟運用している場合、
青色申告特別控除は受けられますが、事業税は掛かりません。
事業税の税額は、[(不動産所得ー事業主控除290万円※)× 税率5%]です。
※年間控除額。営業期間が1年に満たない場合は月割りで計算


賃貸経営の法人化で、所得税の節税に


所得税の節税をする方法の1つに賃貸経営の法人化が挙げられます。
個人事業主の場合は所得税・住民税を合わせて最高税率が55%に達するのに対して、
法人実効税率(図3参照)の方は最大33%程度と低いからです。
いくら所得が増えても、約33%以上にはなりません。
所得税・住民税は課税所得が900万円以上で43%になります。
つまり、課税所得900万円以上なら、法人化した方が得になる計算です。

しかし実際は、それほど単純ではありません。
法人を設立するための諸費用、税理士への報酬、所得の有無にかかわらず、
負担しなければならない法人住民税・均等割課税が最低7万円かかります。
その一方で、法人は個人よりも経費として認められる範囲が広いため、
所得を抑える方法も少なくありません。
さらに、親族を法人の役員にして所得を分散する効果もあります。
こうした効果を考慮すると、課税所得が1000数百万円以上なら、
法人化のメリットが勝るのではないでしょうか。

図3.jpg


もちろん、どんな人でも法人化をすれば有利になるとは限りません。
賃貸経営の規模や家族関係の兼ね合いなど、留意すべき注意点も多くあります。
将来の相続や事業承継も視野に入れて、
具体的なシミュレーションをしながら検討してみるといいでしょう。


小規模な住宅用地は固定資産税が遊休地の1/6!


不動産を所有している限り毎年かかる固定資産税と都市計画税についても触れておきましょう。
資産家と言われながら、遊休地をいくつも所有して
固定資産税の負担が重いと感じるオーナーは少なくありません。
賃貸経営は、固定資産税の節税対策としての土地有効活用の有力な手法の1つと言えます。

固定資産税の税率は一般に1.4%と言われます。
実は1.4%というのは標準税率で、自治体の裁量で高い税率を設定することも可能です。
割以上の自治体は1.4%ですが、最大で1.75%という自治体もありました。
一方、都市計画税は最高税率が0.3%と定められています。
0.10.25%の低い設定をしている自治体もあれば、
都市計画区域内でも都市計画税を廃止したところもあるようです。
土地を所有している所轄の自治体に確認してみましょう。

さて、賃貸経営が固定資産税対策になる理由は、図4のように、遊休地に賃貸住宅を建てると、
課税の基となる評価額が大幅に圧縮されるからです。
いわゆる「固定資産税等の住宅用地特例」と呼ばれるもので、
面積が200㎡以下の小規模住宅用地の場合は固定資産税が6分の1、都市計画税は3分の1まで圧縮。
200㎡を超えても同じく3分の1、3分の2になります。
200㎡以下というのは、独立した住戸1つの面積なので、
例えば賃貸住宅が10戸あれば2000㎡まで小規模住宅用地の扱いになる計算です。

図4.jpg


この住宅用地は、あくまでも住宅が建っている土地なので、
店舗や事務所などの事業用の土地は軽減されません。
店舗・事務所を併用している住宅の場合は、
住宅の床面積の割合に応じて住宅用地として認められる比率が変わります。

また、特例は土地だけではありません。
1戸当たりの床面積が50㎡(貸家は40㎡)以上280㎡以下の新築建物にも特例があります。
建物の構造や性能に応じて3~7年間に渡って税額が半分になるものです。
この床面積は、独立した1戸の専用面積ではなく、共用部分を按分した面積になるため、
賃貸で専用面積が40㎡弱でも適用される可能性が高いでしょう。
ただし、30㎡程度に満たない単身向けのワンルームや1Kは特例が適用されません。

土地活用のプランを検討する際には、
こうした各種税金の条件についても意識して考えておきましょう。