コロナ禍からの回復に加え、30年以上に渡るデフレからの脱却も視野に入ってきました。
インフレはここ数年来の傾向ですが、不動産価格の値上がりは10年前から続いています。
3月27日に発表された最新の公示地価を含めて、不動産市場の動向を解説しましょう。
30数年ぶりの記録更新続出で「脱デフレ?」
2024年の年明けから、1990年以降の"失われた30年"を取り戻すかのように、
次々と記録を塗り替える動きが頻発しています。
・2月22日に日経平均株価が3万9000円を超え、バブル絶頂期の史上最高値を34年2カ月ぶりに更新
・春闘労使交渉の賃上げ率が上回る平均5.28%と33年ぶりの高水準
・為替相場が、1990年7月から約34年ぶりの円安・ドル高水準
(2024年3月27日/1ドル=151円97銭)に
そして今年の公示地価も、全用途・全国平均の変動率がプラス2.3%となり、
1991年以来33年ぶりの伸び率となりました。
一連の動きを受けて、「"脱デフレ"の波」というニュースが飛び交っています。
バブル再来をあおる声、懸念する声、悲喜こもごもとなっています。
確かに統計上は"バブル以来"の記録に違いありません。
ただ、実態としては、それほど騒ぐほどの水準とは言えないでしょう。
「全用途」は、用途の異なる住宅地・商業地・工業地を一緒くたにしたカテゴリーです。
それぞれの用途に分け、さらに特徴のある地域別のデータに分解してみましょう。
公示地価のバブル・ピーク時の上昇率は以下の通り。
〇東京圏...ピークは、すべて1988年
・住宅地:68.6%/商業地:61.1%/工業地:56.1 %
〇地方4市(札幌、仙台、広島、福岡)
・住宅地:22.9%(1990年)/商業地:24.0%(1990年)/工業地:30.1%(1991年)
ここ10年の公示地価の上昇率は図1の通りです。
東京圏のバブル時は軒並み50~60%の上昇率でしたが、
「バブル以来の伸び率」と言われる今年はプラス3~6%と、バブル時の10分の1にとどまります。
地方4市の上昇率は現在、東京圏より高い状態が続いていますが、
それでもプラス7~10%で、バブル時の1/2~1/3の水準です。
また、バブル時は、全国のほとんどのエリアで地価が上昇しました。
しかし現状は、下落し続けているエリアも少なくありません。
今年の公示地価では、住宅地と商業地が15県以上、工業地が2県でマイナスとなっています。
昨今の地価上昇は、大都市圏の中心部や著名なリゾート地・観光地に限られ、
それ以外の地域との格差が拡大していると言えるでしょう。
戸建よりマンションの価格上昇が大。都心は新築の動きが激しい
不動産価格についてはどうでしょうか。
図2は、住宅の種類別の不動産価格を指数化して、過去10年間の推移を示したグラフです。
「住宅総合」は、住宅地・戸建住宅・マンションを合わせた指数になっています。
住宅地と戸建住宅は、ほぼ同じ動きのため、住宅地は省略しました。
また、全国のデータを示していますが、東京都も同様の傾向です。
戸建住宅の価格は、2020年前半までずっと横ばいで、コロナ禍後にやや上昇し始め、
2020年後半から再び横ばいに戻りました。
直近では少し下落気味の動きもうかがえます。
10年間で20ポイントも上がっていません。
一方、マンションは一貫して右肩上がりのトレンドです。
コロナ禍後に上昇率が鈍るどころか、勾配がきつくなっているようにも見えます。
10年間で80ポイントくらい上がっています。
土地や戸建住宅よりも、マンション価格の動きが激しいことは明らかです。
マンションは都心部の動きが顕著です。
そこで、東京23区のマンションのトレンドを追ってみましょう。
図3は、新築・中古それぞれのマンション単価を60㎡に換算した1戸平均価格の推移です。
これも10年前までさかのぼっています。
中古マンションは緩やかに上昇を続けています。
新築マンションの方は、コロナ禍に入った2020年から3年間ほど停滞した後、
2023年に一気に急上昇しました。
中古と新築との格差は、おおむね30%前後で推移していましたが、
新築が上昇しなかった時期に20%前半まで接近。
2023年に格差が再び拡大し、40%近くも乖離した状態になっています。
今後も、中古が新築を追いかける形で上昇する可能性があるでしょう。
マンションは10年前の2倍以上で売れる!?しかし買い替えのタイミングが重要
マンション価格の動きを別の角度から検証した興味深いデータもあります。
LIFULL HOME'Sが東京23区を対象に調査した「中古マンション値上がり率ランキング」です。
(図4参照)
新築マンションを購入した後、10年くらい経って中古として売った場合に、
売却価格がいくらになるかを推計しているため、
買い換えを検討している人にとって参考になるでしょう。
「倍率」は、10年後に何倍で売れるかを意味しています。
自治体単位で、倍率の高い順に左からトップ10まで示しました。
東京23区全体では平均1.47倍です。
10年前の新築分譲時は、港区を除いて4000万~5000万円でしたが、
軒並み値上がりして億ションになっているエリアも少なくありません。
倍率トップは目黒区で2.2倍に達しています。
続いて、渋谷区・品川区・新宿区など、
都心から南西部のエリアの倍率が高くなっていることがわかります。
港区は元々の価格が高いため、倍率では6位の1.6倍でした。
閑静な住宅地が多い杉並区や世田谷区は23区平均に近い1.4倍です。
いずれも大幅な値上がり率ですから、売却益を元手により広いマンションや、
より都心に近いエリアにステップアップできると、買い換え意欲が増すでしょう。
しかし、喜んでばかりはいられません。
なぜなら、買い換え先も大きく値上がりしているからです。
このデータの基になるマンションが新築分譲された10年前は、
まだマンション価格が上がり始める前の段階でした。
その後に上昇した分を丸ごと反映しているために、値上がり率が高まったわけです。
この10年間の新築マンションの値上がりも激しいため、
これから中古で売って新築に買い換えるとすると、必ずしもステップアップできないとは限りません。
図3で見たように、2023年は中古と新築の価格差が拡大しました。
今後、中古が新築の値上がりに追いつけずに格差が広がると、買い換えが難しくなったり、
縮小買い換えになったりする恐れもあります。
売りと買いのタイミングが重要になってくるでしょう。
また、買い換え先の価格が高くなれば、借り入れる住宅ローンの金額も膨らみます。
資金調達の面でもネックが出てくるかもしれません。
2024年3月下旬に、いよいよ日銀がマイナス金利政策を解除して、
17年ぶりに利上げに向けて舵を切りました。
マスメディアでは「住宅ローン金利が上がる」と危機感をあおっています。
「緩和的な金融環境が続く」、つまりゼロ金利政策はしばらく続くと予想されるため、
すぐに金利が大きくアップする可能性は低いでしょう。
ただ、金利の先高感が強まっていることは確かですから、固定型か変動型かの選択や、
借り入れのタイミングがカギとなります。
さらに言えば、新築マンションは建物の完成前に分譲する"青田売り"が一般的です。
通常でも売買契約から竣工・引き渡しまで半年から1年は当たり前。
大型のタワーマンションでは、引渡しが2年以上先になることも珍しくありません。
ローンは、引き渡しの際に残金を決済する時点の適用金利が適用されます。
今現在の金利水準ではなく、数年先の状況を見極め、ある程度の金利アップを見込んで、
余裕を持った資金計画を立てる必要があるでしょう。
売り買いのタイミングで言えば、
価格が落ち着いた時期の買い換えでは「売ってから買う」のがセオリーです。
しかし、値上がり時期は、逆に「買ってから売る」方が良い可能性もあります。
例えば、2年先に引き渡し予定のタワーマンションを今すぐに購入契約し、
引き渡しの時期に合せて手持ち物件を売るわけです。
価格の上昇トレンドが続くなら「安く買って高く売る」ことができます。
もちろん、先に購入物件の手付金を払うなど、資金繰りに余裕がないとできません。
今後は、価格相場と金利の動きを両方にらみながら決断する、
難しい判断が迫られる時期に差しかかっていると言えるでしょう。